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若松格:アメリカ車を運転する感動を提供

2019/07/15

  • 若松 格(わかまつ ただし)

    ゼネラルモーターズ・ジャパン株式会社代表取締役社長
    塾員(1989 政)。大学卒業後、ヤナセ入社、GM事業部を担当。2000 年よりGMインターナショナルでアジア地域等を担当。2016 年より現職。

  • インタビュアー牧野 賢一(まきの けんいち)

    慶應義塾体育会自動車部OB

アメリカ車が与えたインパクト

——アメリカ車は日本で売れない、と言われていますが、GM(ゼネラルモーターズ)車はいつごろから日本に入っているのでしょう。

若松 戦前はアメリカ車がマーケットリーダーで、GMジャパンは1927年に創業しています(当時は日本ゼネラルモーターズ)。さらに、私が以前いたヤナセは1915年に創業しており、その創業ブランドがキャデラックとビュイックでした。

つまり104年前からGM車は日本に入っていて、日本ゼネラルモーターズができたときは、輸入だけではなく、大阪に組み立て工場を建てて作っていたんですね。

——古い歴史があるのですね。

若松 ええ。僕は1989年に大学を卒業してヤナセに入ってGM車を担当していましたが、その頃は最大で約6万台の販売があり、輸入車の中では一番売れていました。

ただ、6万台といっても、2万台ぐらいはトヨタキャバリエとして売っていて、あとはシボレーが6000台強、キャデラックが3000台強で、合わせて約1万台。ほかにポンティアック、ビュイック、オールズモービル、ハマーといった車種がありました。あとは子会社だったヨーロッパのサーブとオペルも扱っていて、合わせて約6万台です。

当時一番売れていたのは、シボレーのカマロとブレイザー。当時はSUV(スポーツ・ユーティリティ・ビークル)が売れ出した頃です。

ヤナセに入った頃は、日本は「いつかはクラウン」という時代で。

——だんだんステップアップしていくのですね。

若松 そうです。カローラからコロナになって、管理職になるとマークⅡになり、いつかはクラウンと(笑)。

そんな時代に、シボレーにはS10ブレイザーというSUVがあった。日本でも、車はセダンでステップアップしていくものという価値観から、社会も成熟し、だんだんと、SUVなどへ嗜好が多様化していく時代だったのだと思います。

まだヨーロッパ車にはSUVがほとんどなかったので、その頃のアメリカ車は、日本の自動車文化に影響を与えていて、実際そこそこ売れていました。私はヤナセでブレイザーの右ハンドル車導入を進めたり、アストロの正規輸入を企画していたんですね。

GMでしかできない商品

——なるほど。現在はどのような状況でしょうか。

若松 GMはいろいろと戦略を変えていく中、今は左ハンドルだけのラインアップにしています。なぜかというと、「GMでしかできない商品」というものが僕たちにはあると思っており、それを打ち出していこうと考えているからです。

現在、シボレーのカマロとコルベット、そしてキャデラックを主体に展開しています。カマロはニューモデルを出していくことで、もう一度成長の軌道に乗せようとしている。つまり、プリウスやヴィッツやフィット、あるいはN-BOXに対抗する車を入れるようなことは、全く考えていません。そこはうちの強みではないからです。

今のカマロは新規のお客様が7割ぐらいで、その中でも一番多いのが20代で、3割を占めています。今、若者の車離れが進んでいる中で、20代の人たちが買ってくれるのは嬉しいことです。単なる移動の道具ではなく、「カマロが好き、車が好き」というお客様が多い。

——似たような車が多い欧州車に対して、カマロはとてもユニークで独特な雰囲気を持っていますよね。

若松 今、カマロはエンジンが2種類あり、1つは2リットルターボ。一方、6.2リッターV8が根強く存在している。「アメリカ車はやはりV型エンジン」というお客様がいらっしゃいます。

基本的な技術は昔と同じでも、その効率を上げ続けて進化しています。これはやはりうちの強みかなと思います。排気音も他と違いますしね。

——V8特有の「ドロロロロン」という音、あれはやはりいいですね。

若松 もともとアメリカ車のDNAには、「車は皆のためにあるもの」という考えがあると思います。

T型フォードなどもまさにそうですが、GM車もセルフスターターやオートマッチックトランスミッション、オートマチックエアコンなどを世界で初めて採用している。限られた人しか運転できなかった「車」というものを、もっと多くの人に普及したいと思ってやってきたと思うのです。

例えば、アメリカ車は80年代から電動で自由自在にシートが動きます。お客さんから「アメリカ車は大きい人向けじゃないの?」とよく言われるのですが、アメリカは多民族国家でアジア系もヒスパニックも欧州系の人もいる。だからどんな人の体型でも合うように、という配慮があるわけです。

アメリカの自動車文化は、大げさに言えば、民主化された世界の中で公平さを重視して作られてきたと思います。

GM車は日本の輸入車の中では珍しい位置にあるのかもしれませんが、嗜好性は高くても、実際には運転しやすいんです。エルゴノミクス(人間工学)的に言うと、いかに人間が扱いやすいようにするか、という視点があります。

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