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安永雄玄:ビジネスの経験を活かして築地本願寺を改革
2019/06/17
伝統ある仏教の役割とは
——今後はどのような取り組みをされていくのでしょうか。ここは結婚式なども前からやられていますけど、良いことだなと思うのです。
安永 お寺が葬式仏教と揶揄されて久しいですが、本来はお寺というのは生きている人のためのものです。人々が死ぬまでの間、お寺とのつながりを深めていって、信仰や信心に理解を深めていただくのが本来の仏教、寺院の在り方だと思うので、結婚式もお葬式も1つの教えに触れるきっかけですよね。ご縁だと思う。
それがきちんとした儀式で行われ、きちんとしたご法話があると「ああ、そうか」と思うじゃないですか。そのように仏の教えの理解を深めていく場がお寺で、一人一人が人生にきちんと問い掛けをするところでもあります。
仏様は選別されません。いつでも全部を受け入れてくださいます。
だから、どんな失敗だろうが成功だろうが、やり残したことがあろうが、病気になろうが、皆受け入れてもらえるんだと実感してもらえればいい。
——私は長男に障害があって、いろいろ進路について悩んでいる時に、たまたま仏教の本を読んだのですが、「許す」という発想はすごくいいなと思いました。やはり仏教の教えは、何か迷ったりしていると、パッと入ってくるタイミングがありますね。
安永 そうですね。それは得てして、夢が希望通りにならなかった時や、肉親と死に分かれた時、病を得た時、人生のいろいろな曲がり角に差し掛かった時です。その時に受け入れてくれるものがあれば、前に進めるじゃないですか。そういうことが伝統ある仏教の本当の役割ではないかと思います。
——今、お寺の置かれている状況は、かなり檀家の人が少なくなっていて、地方などでは相当経営が厳しくなっている状況になっていますね。
安永 浄土真宗本願寺派のお寺は1万300くらいあるのですが、約半分のお寺は年間の収入が300万にいかない。住職がどこかほかでお金を稼いで寺を維持しているわけです。跡継ぎがいなければ、当然その寺は維持できない。地方の過疎地のお寺は、それが急速に今後進行していくと思います。
——そういったときに、やはりガバナンスを発揮できるのは包括宗教法人ですよね。
安永 浄土真宗本願寺派という包括法人の下にいろいろなお寺がぶら下がっている形ですので、早くガイドラインをつくって寺院の統合をしていけば、まだ生き残れると思います。でも、「うちの寺が」とか、皆が言い張っていたら統合できません。懇志、お布施もどんどん減ってきますし、内部の合理化が進まないと、もうやっていけない。
でも、僕は現代人には絶対に信仰、宗教は必要だと思いますよ。合理的な選択として、宗教的な生活をするということが非常に大事だと思う。選ぶのは皆さんで、われわれが選ぶ時代ではない。自分の間合いでお付き合いいただいたらいいわけです。毎日相談に乗らなければいけない人もいれば、何かの時だけお願いしますというのでもいいんです。
——その仏教界のおおらかなところが僕は好きですね。今日は有り難うございました。
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。
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