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島田由香:新人事制度「WAA」が変える日本の働き方

2018/06/26

  • 島田 由香(しまだ ゆか)

    ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス取締役人事総務本部長
    塾員(平8総)。大学卒業後パソナ入社。米コロンビア大学留学(組織心理学修士取得)、GE社を経て2008年ユニリーバ入社。2014年より現職。

  • インタビュアー小尾 晋之介(おび しんのすけ)

    慶應義塾大学理工学部教授

「WAA」に込められた意味

——ユニリーバの新しい人事制度「WAA(ワー)」が2016年の導入後も注目を集め、数々の賞を受賞しています。この制度の「売り」とはどういうところでしょうか。

島田 WAAはWork from Anywhere and Anytimeの略です。働く場所や時間の制限をなくし、働き方の選択肢を増やしていく。この考え方そのものが1つの大きな特徴であり、「売り」だと思います。

最近でこそ在宅勤務が広がってきていますが、これまでの日本ではオフィスで働くのが当たり前。それに対し、WAAでは、働く場所は公園でもカフェでもいい。働く時間も、平日6時から21時の間なら、いつ働き、いつ休憩してもいい。結果さえ出せば、自分で決め、自分のやり方で進めていいという働き方です。これは今までの「当たり前」とはとても違うことかもしれない。だからこそ注目していただけているのだと思います。

——「WAA(ワー)」という読み方も面白いですね。

島田 WAAという名前には2つの意味があります。1つはうれしい驚きがあったときに思わず出てしまう「ワーッ」という声。もしかすると多くの人にとって仕事はつまらないもの、お金のために仕方なく我慢するものかもしれない。でも、本当は皆が「ワーッ」と歓声を上げたくなるくらい、働くことを楽しめたらいいですよね。その思いを名前に込めました。もう1つ、「ワーッ」と広まっていってほしいという意味もあります(笑)。

働き方改革は、本質的には生き方改革だと考えています。制度をつくって、「はい、働き方改革です」ということではない。私たちが目指すのは、すべての人がいきいきと働き、健康に、楽しく豊かな人生を送ることです。そのビジョンを実現していく1つの手段がWAAなのです。

——逆に今まで楽しく働けなかった理由は、時間や場所が決まっているということが一つの大きな要因だと。

島田 いくつもある要因の 1つだと思います。例えば、朝9時に出社するために通勤ラッシュに揉まれ、やっとオフィスに着いたと思ったら「生産性を上げて」と言われる。そのことで仕事がつまらなくなっている人もいるかもしれません。

より大きな問題は、働く人の「やらされ感」です。「やらされている」という意識では、どんな仕事も楽しめません。これは変えていきたい。本来、どうすれば仕事のパフォーマンスが上がるのかは本人が一番よく知っているはずです。WAAをきっかけに、働く人の意識が「誰かにやらされる」から「自分でやる」に変わり、より自分らしく働けるようになれば、仕事に楽しみが増えていくのではないかと思っています。

「ワーク・イン・ライフ」へ

——単にフレックスとか、SOHO的な働き方の制度ではないということですね。

島田 そのとおりです。制度と、それを活用していくマインドセットの2つが揃わないとうまくいきません。それで、WAAのロゴも、2つの車輪でバランスを取りながら走る自転車のデザインにしました。

社内のトレーニングでも、制度の紹介だけではなく、マインドセットに重点を置いています。これまでの「ワーク・ライフ・バランス」という考え方では、仕事と人生が別のものというイメージがあったように思います。でも本当は、仕事は人生の大切な一部。「ワーク・イン・ライフ」なのです。WAAをきっかけに、どんな人生を送りたいのか、どんな働き方をしたいのかを自らに問いかけ、自分で選んでほしいと社員に伝えています。

——社員の人たちからはすべてが自由になることに不安はなかったですか。

島田 WAAの導入前には、「皆がオフィスに来なくなったらどうするのか」「コミュニケーションがとれず、チームワークが発揮できなくなるのではないか」「さぼる人が出たらどうするのか」といった声もありました。しかし、社員との対話を深め、実際にWAAを進めていく中で、そうした不安の多くが思い込みだということが分かってきました。

たしかに同僚がオフィスの外で働いていれば、実際に会うことはできません。でも、それで本当にコミュニケーションがとれなくなるのか。話したければ、スカイプや電話でも話せます。そのほうが時間の節約になることもあります。問題は会えないことではなく、会えないと話せないという思い込みなのです。

場所や時間の制約がない中、どうチームのパフォーマンスを最大化し、目標を達成していくのか。それを考えるのは、リーダーの役割です。それだけに、これまで以上にマネジャーの力量が問われるようになりました。そのため、マネジャーのためのトレーニングの機会を増やしています。

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