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片岡義朗:社会の「旬」をミュージカルで表現する

2018/04/01

海外への展開

──2.5次元ミュージカルは、海外でも受け入れられていくでしょうか。

片岡 この先10年ぐらいで、世界中に広がっていくと思います。すでに上海に2.5次元の専用劇場ができています。日本にも常設劇場は1つしかないので、中国が追い抜くのも時間の問題かもしれません。

日本の漫画・アニメは、僕の感覚だと、世界中にいる心がピュアな人の娯楽のスタンダードになっていると思います。ハリウッドの映画のスタイルになじめない人もたぶんいるでしょう。そのとき、新しいものに心を開いてくれる若年層の人たちが、日本の漫画・アニメを面白いと思ってくれているのではないでしょうか。いい例が、ロシアのフィギュアスケートのメドベージェワ選手が、『美少女戦士セーラームーン』の完全コピーの衣装で踊ってくれたこと。そのように、日本製のアニメを純粋に楽しんでいる人が世界中に大勢いる。その舞台化ですから、世界中どこでも受け入れられるはずです。

──たしかにファン層の裾野はとても広いでしょうね。

片岡 僕は「日本2.5次元ミュージカル協会」の設立に関わったのですが、その趣意書の目標として、「2.5次元ミュージカルのカタログ化」を挙げました。ブロードウェイでもロンドンでもすでに行われていますが、このミュージカルをやりたい人向けに作品のスペックを公開するものです。つまり、この作品の許諾窓口はここで、許諾料はいくらで、英語版のシナリオがあるとか、音楽はカラオケを提供できるとか、登場人物は男性何人、女性何人など、そういうスペックをすべて明らかにするわけです。そうすれば、世界中の高校や大学の演劇部が、「俺たちだってテニミュができる」となる。

演劇の世界では、学校での上演や、公共の福祉に資する公演の場合、許諾料が安くなったり無料になったりします。そういったこともできれば、あっという間に世界に広がると思います。

アニメ制作の現場を支える

──これからどのようなことに取り組んでいこうとお考えですか。

片岡 2.5次元ミュージカルは、ジャンルとして定着したのですが、発展が急激だったため、今、踊り場にあると思っています。粗製濫造、あるいは同工異曲に陥っているところもあるし、ミュージカルの文法を知らない人がつくっているような作品もある。それは新しい可能性かもしれないですが、文法をちゃんと守ってつくったほうが間口は広がると思うし、長く続くのではないでしょうか。やはり、時間をかけて洗練されてきたスタイルには、どんな石が跳んできても跳ね返す力がある。そういう気持ちもあって、今年上演した『監獄学園』は、畑雅文君という、今とても期待している演出家にお願いしました。

──『監獄学園』はとてもシンプルな舞台で、だからこそすごく想像力をかきたてられる作品でした。

片岡 でも、今の僕には、アニメでも舞台でも作品のプロデュース以外にやるべき仕事があります。育ててもらったアニメ業界の問題です。

現在のアニメ業界の産業構造は、とても現場に厳しい。ヒット作を持つような有名な監督さんでも、驚くくらいに収入が少ないんです。日本のアニメは世界中でもてはやされていて、マーケットも膨らんでいますが、現場の人はそれに見合った報酬を得ていない。

──本当に深刻な問題だと思います。

片岡 僕は40年間、発注側でアニメの仕事をしてきましたが、こちらが「アニメ1話1700万円でつくって」と伝えて、「はい、分かりました」というようなやりとりを続けてきました。実際に現場にお金がどう回っているのか、見て見ぬふりをしてきたと言ってもいいと思います。ですから、現場サイドから発注の金額に対して何らかの交渉を行うことや、契約書についてもしっかりサポートをしたいと思います。

コンテンツの2次利用には隙間が必ずある。2次利用のライセンスの獲得などについても、現場サイドから要求できることはあります。そういう交渉、契約を手伝う仕事です。最近は、頼りにしてくれるスタジオも増えてきて、これは真剣にやらないといけないと思っています。

──これからもすばらしい作品が生まれ続けるためにも重要なお仕事ですね。

片岡 ええ、そしてこれはまさに法律学科で学んだことです。著作権法に詳しい弁護士の先生もいらっしゃいますが、その方たちが、アニメや漫画の制作現場の側に身を置いて仕事をしてくれるかというと、必ずしもそうではなくて、発注側にいらっしゃることも多い。ですから、こちらも著作権法や会社法、商法全般をある程度理解していないといけない。ですから、今ごろになって、学生時代にもっと勉強しておけばよかったと思うんですが(笑)。

──ますますのご活躍を期待しています。今日はありがとうございました。


※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。
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