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小川明彦:大手に負けない地域密着型コンビニを展開

2017/12/01

商学部、KBSでの学び

──小川さんは商学部清水猛ゼミの私の先輩で、先日は髙橋ゼミの合宿にもお越しいただきました。慶應に進学されたきっかけは何だったのでしょうか。

小川 地方の高校だったので、国公立大学に行くのが主流という感じでした。数学が好きだったのもあったし、慶應は自由で明るいというイメージがありました。なんか自分にフィットするところがあったんですね。そうしたら、たまたま受かってしまったんです。

──慶應では商業学のゼミに進まれましたが、どんな思い出がありますか。

小川 英語の原書を読んでいるとき、コンビニエンスストアという言葉が出てきたんですよ。まだ3年生で、実家に戻って酒屋を継ぐなんて思っていないときです。それで清水先生が「小川君の実家は食料品店だから、将来こういうことも頭に入れておくといいかもしれないよ」って言われたんです。

ところが、その文献には「コンビニエンスストアが24時間営業」と書いてあった。業務用の酒店をやっている実家の現状と、「食料品店で24時間営業のコンビニがアメリカで生まれつつある」というのがまったく結びつかなかった。なので、「24時間なんて勘弁してくれよ」と思っていました。それが現実になるとはね(笑)。

──慶應のビジネススクール(KBS)でも学ばれて、社員教育に生かしていらっしゃいます。

小川 経営も擬似体験が必要だということで、ケースメソッドでいろいろな会社のケースを学びました。その経験から、社内で自由に意見を言えるような環境をつくり、議論していくうちに、実際の大津屋の業務についても、あれこれ言いやすくなるだろうと思って、髙木晴夫先生のケースメソッド教授法を受講させていただき、社員教育にケースメソッドをを取り入れたんです。

日吉のKBSの教室と同じような部屋を作りました。階段教室の段の高さも、KBSのものと同じにしています(笑)。総合職の社員が定期的に学んでいます。

──採用の時点で、そういう学ぶ意欲のある人を選んでいるのでしょうか。

小川 採用の段階で、「こういうケースをやったり、勉強し続ける会社だよ」ということは最初に念を押します。そこから先は、その人が素直であれば周りの先輩たちの影響を受けていきます。グループディスカッションでアドバイスされたり、うまくサポートしています。まさに髙橋先生のゼミで4年生が3年生をサポートするようなイメージですね。昔の清水ゼミで体験していたことが生きているなと思います。

新しいものを生み出し続ける

──福井という土地へのこだわりの理由は何でしょうか。

小川 福井にはいいものがたくさん残っているんですよ。日本の原風景が残っているし、人も実直、素朴、真面目です。いまの日本から消えつつあるものが、福井にはまだある。それこそが差別化できるポイントなので、前面に出していきたいですね。

──コンビニエンスストアという業態の将来については、どう考えていますか。

小川 ダイニングコンビニとして、より出来たて感にこだわりたいですね。つまり注文を聞いてからつくって、熱々のものをお出しする。食堂でもお持ち帰りでも、焼きたてのブリの照り焼き、アマダイの塩焼きが頼める、予約できる。東京の人が見たら、これがたった1000円なんてありえない、というようなことを、福井では当たり前に提供したいと思っています。

もう1つは、スーパーマーケットが今後成り立ちにくくなるだろうなということです。人口が減ってお店の売上が下がると、それを補うためにチェーンはさらに店舗を増やそうとします。各スーパーの売り場はそれぞれ、キャベツやニンジン、トマトなど一通り百種類ぐらいは揃えておかないといけない。「うちはキャベツ置いていません」というわけにはいかない。でも店舗の数が過剰になっていくと、そういう鮮度のある総合的な売り場を保つのは難しくなってくるだろうと思います。

そのとき、オレボはすべてを揃えることはできないけれども、おいしい肉じゃがとか、アジフライが食べたいというときだけ来てください、というスタンスで行きたいと思っています。部分部分で集約して、旬のおいしいものだけが並んでいる、という戦略ですね。

──2022年には、北陸新幹線の金沢─敦賀間が開業して、福井にも新幹線の駅が設けられますね。

小川 これまで大手コンビニと競争してそれなりに成果を挙げてきたという手応えがあります。その考え方ややり方を、福井の、ひいては地方都市の街づくりに当てはめて、ビジネスモデルとして提案していければと思います。

セブン–イレブンやローソンがあるなかで、一地方都市のオレボがなぜやれているのかというと、お客さんが「オレボには自分の欲しいものが置いてある」といって来てくれるからです。今後も、新幹線で来る首都圏のお客さん、あるいは海外のお客さんが何を求めて来るのか、ターゲティングをしっかりと捉えて、それに合うものを提供していきたいと思います。

──地方出身の塾生や若い塾員へのメッセージはありますか。

小川 とにかく新しいものを生み出していかないと社会の進展はない、ということはこれまでずっとテーマにしてきました。そのためには、そういうことを自分の頭で考えられる人材を育成するしかない。学校で基礎的なことを学んだうえで、社会に出てからも学び続け、新しいものを生み出していってほしいですね。多少のリスクがあっても、そこを挑戦できるような「独立自尊」の人が出てきてほしいと思います。

──ますますのご活躍をお祈りしています。今日はありがとうございました。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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