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小川明彦:大手に負けない地域密着型コンビニを展開

2017/12/01

「中規模」だからできること

──大手のコンビニとの違いについて、もう少し教えていただけますか。

小川 オレボステーションには、バイキングがいいとか、お惣菜がおいしいということでお客さんがお越しくださいます。ですから、大手コンビニにあるような細かい日用雑貨は置いていなかったりします。銀行のATMや、チケットの発券機もありません。ああいったものは、1万店舗くらいあるからシステムがつくれるんです。それを求める人はそっちのお店に行ってもらって、そうではない、大手のできないことを徹底的にやろうとしました。

──1店舗当たりの販売額は、大手チェーンに引けを取らない数字ですね。

小川 セブン–イレブンとオレボは、だいたい同じぐらいで日商60〜65万円です。ただ、セブンも全国平均では62万円くらいですが、首都圏では70万円近くて、福井などだと50万円ぐらい。なので、われわれは健闘しているほうではないかと思います。

──ご著書(『中小企業だから仕掛けられるマーケティングの大技』)の中で、マーケティングにおいては、大企業より中小企業のほうが有利な場合もあると書かれています。

小川 われわれくらいのお店の規模だと、店内調理でおにぎり、お弁当をつくって出せます。ところが大手チェーンには、例えば新宿の歌舞伎町にあって日商200万円、みたいなお店もある。その規模で、店内調理は無理です。1つの厨房ではつくれない。売れ過ぎちゃうからできないんです。大都市ではできないけど、地方都市ならつくって出せる、というのが店内調理です。

ところで、「いちほまれ」って聞いたことありますか?

──お酒の名前でしょうか。

小川 これは、お米の名前なんです。福井はコシヒカリ発祥の地ですが、6年かけて日本一おいしいお米をつくろうといって開発して、今年の9月23日に売り始めました。福井では米騒動と言われるくらいのフィーバーになって、各スーパーの売り場に出てもあっという間になくなります。でも東京の人にはほとんど知られていません。

そこで、スーパーやコンビニでは手に入らないけれども、うちの店内調理のお米については、一定期間いちほまれを使わせてほしい、ということで話をしました。いま「オレボのご飯はすべていちほまれ」として打ち出していて、うまくいっています。

もう1つ思うのは、欠品がいけないという考えは間違っているということです。大手チェーンのバイヤーにとって、仕入先や生産者が欠品しないことは絶対条件です。たくさん売れたので補充できません、欠品しました、となったら、全国の店舗からブーイングが出るからです。

全国1万何千店のチェーンでよく売れる物となると、とんでもない量です。それを1つも欠品するなと言われたら、出せるメーカーは限られてくる。少量でも良い物をつくっているところは取引できません。でも、そういう物をお客さんが欲しいということは結構あるんです。本当はおいしい、だけどたくさんはつくれないという物です。

それを、オレボが福井市内の数店舗でちょこちょこ売る。「これが買えるのはオレボしかないわ」みたいにお客さんに喜んでいただけます。例えば、宮崎の地鶏とか、礼文島のホッケ。見たことがないくらい身が分厚いホッケが置けるのは、うちが中規模だからです。

大衆食堂を現代版に進化

──現状での課題は何でしょうか。

小川 お昼ご飯の需要に応えるのはとてもうまくいっていると思います。ただ、晩ご飯の需要に対しては、もっと伸ばす余地があると思っています。

みなさんも同じだと思いますが、今日は家に帰ってもご飯がない、という日がありますよね。そういうとき、500円のコンビニ弁当じゃなくて、800円、900円ぐらいでできたての定食が食べられたり、焼き魚弁当が持って帰れるような形ができないか、そのための厨房、そして提携業者がどうあるべきかを考えています。

福井は魚どころですが、野菜や肉と違って魚が難しいのは、獲れる量がまったく安定しない点です。だから、とてもシステム化しにくくて、大手チェーンも苦手なんです。例えば、都内の大きなホテルの朝食バイキングも、魚はサバの切り身だけだったりします。 それに対して、今日はなかなか正規に流通しないようなアジの小さいやつがいっぱい獲れたから、フライにして出しましょう、みたいなことができないかと思っています。

──それだと消費者も、日々お店に来るのが楽しくなりますよね。

小川 昔のお肉屋さんは、「あとで行くからコロッケ5個揚げといて」みたいなことができました。これをスマホ注文で再現できるようなサービスを最近始めました。昭和50年代にコンビニができたとき、「コンビニは現代のよろず屋さんです」という言い方がありました。そのコンビニのおかげで、街の八百屋、酒屋、魚屋、肉屋がなくなり、同じように大衆食堂もなくなった。でも、需要はあるんです。そういうものを現代版に変換して、さらに進化させようと考えています。

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