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中野優理香:宇宙飛行士を地上から支える

2017/07/01

次の宇宙探査ミッションに向けて

——やはり将来は宇宙飛行士になりたいですか。

中野 チャンスがあればトライしたいですね。小学校2年生のときからの夢です。今はISSが高度400キロと地球の近くを飛行しているため、ほとんどタイムラグ無く宇宙飛行士に対して指示が出せますし、強力に地上からバックアップできます。しかし、この距離が火星のように遠くなった場合はどうでしょうか。これからは、今のような地上からのサポートもなく、宇宙飛行士が文字通り宇宙に放り出されるような時代が来ると思います。今までのISSの運用管制や連携について知っている人が宇宙飛行士になれば、訓練方法や今後の運用体制を検討する際に役に立てるのではないかと思います。

——次のステップというのは何か考えていますか。

中野 今は「きぼう」のフライトディレクタですが、「こうのとり」という宇宙ステーション補給機(HTV)の5号機、6号機の運用にも、HTVのシステムを担当する管制官として参加していました。今度の7号機に向けて、HTVのフライトディレクタの訓練を今年度から始めることが決まったので、さらに新しい分野の勉強に挑戦したいなと思っています。

——「きぼう」と「こうのとり」では、フライトディレクタの仕事も違う?

中野 ええ、必要な知識が全然違います。「きぼう」はすでにISSにドッキングしており、有人宇宙実験施設としていかに実験成果を挙げるかが求められますが、HTVはいかに安全に飛ばして、ISSにドッキングし物資を運ぶかというミッションです。軌道力学や、航法誘導系の分野も勉強しなければなりません。

——フライトディレクタの後は?

中野 やはり宇宙ステーションに続くミッションを作り上げていくチームに参加したいと思っています。「きぼう」や「こうのとり」の運用で培った技術はたくさんあるので、その中でどの部分を生かすか、変えるか、という切り分けをきちんと行う必要があります。将来は、火星探査ミッションですね。

——すでにそういう構想があるのですか。

中野 今は、ISSの宇宙飛行士に対してほぼ時差のない交信をして、何か起きても私たちがサポートできます。でも火星の場合は、交信は往復で4分もかかってしまいます。映像を見て「あ、危ない」と思っても、それは2分前のものです。私たちが助言をしても届くのに2分かかる。

こういった時差を考慮して、宇宙飛行士に任せるべきところは任せて、地上管制官はどこまでやるべきか、という切り分けが必要です。今得ている知識を、後続の有人宇宙探査ミッションに生かしていきたいと思います。

——若い人たちには、宇宙に関わる仕事をしたいという人もたくさんいます。

中野 最終的に、どこかで自分のやることが宇宙につながればいいなと思います。人生の中ではいくつか決断をするタイミングがあって、大学でもどの学科に進もうとか、どの研究室に入ろうとか、いろいろ悩むと思います。それが将来にどうつながるかは、実際に経験を積んでみないと分からない。あらゆる決断のタイミングで、しっかり迷って、いっぱい考えて、いろいろな人に相談してほしいなと思います。

——ますますの活躍を期待しています。

今日はありがとうございました。


※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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