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中野優理香:宇宙飛行士を地上から支える

2017/07/01

機械工学科で学んだこと

——中野さんは湘南藤沢中・高等部からの進学ですが、その頃から宇宙大好き少女だったとか。

中野 宇宙飛行士になりたいという思いはずっとありましたが、そう簡単になれるものではないということもわかっていました。それならば私は宇宙の何に興味を持っているのかと考えたとき、やはり有人宇宙技術なのだと思いました。高校生のときに運用管制官という仕事があることを知ったんです。

大学生の頃は、「きぼう」はすでに打ち上がっていたので、そこで運用管制を経験しこれからの有人宇宙探査に向けた課題の洗い出しをしたいと思いました。その思いから、入社のときにフライトディレクタを希望したんです。

——JAXAに入ったときから、すでにそういう希望を出していた。

中野 はい。でも私はかっこいい部分しか見ていなかったので、入った後、この地道な作業にはびっくりしました。毎日泥臭い調整の連続ですが、苦労とは思っていません。

——大学時代を振り返っていかがですか。

中野 理工学部の機械工学科で勉強することは、本当に毎日楽しくて夢のようでした。私は国語も社会も苦手で、物理系は好きだったんです。それを毎日勉強できて、しかも図書館に行くとその分野の本が大量にあって、先生たちに聞けば何でも教えてもらえる。そんな環境は社会人になったら得られません。もちろんサークルやバイトもやりましたが、勉強は大事でしたね。

——中野さんに最初にお会いしたのは、2年生のときの研究室見学かな?

中野 ええ、私はずっと松尾研究室に入りたかったので、2年生のとき、1人で先生にお会いしに行ったんです。

——そうそう、たしかメールアドレスが「astro」で始まっていて、これは筋金入りだなと思いました(笑)。実際に今、機械工学科で学んだことがすごくお仕事に生きていますよね。

中野 機械工学科はすべての基礎をきちんと学べる場だと思います。松尾研では流体力学を学びましたが、その背景もあり、私が最初に入ったポジションはフライトディレクタではなく、「きぼう」の熱制御・環境制御を行うFLATというチームでした。そこでは本当に流体力学が役に立ちましたね。

——小学校までアメリカにいらして、英語もお得意ですが、今のお仕事で英語ができるというのは重要ですか。

中野 特に、英語で交渉してチームの総意を通すということが毎日必要です。私たちはJAXAの実験を背負ってシフトに入っているので、NASAやESAのフライトディレクタとも交渉をしなければなりません。

例えば、この実験はどうしても今日実施したいから優先させてほしいなど、そういう調整を先頭に立ってやらなければいけません。相手のフライトディレクタが欲しい情報を簡潔に伝えて、調整を円滑に進めるためには、やはり英語力は必要ですね。

昼夜逆転の生活も

——シフト制のお仕事だと、日常生活はどんな感じなのでしょうか。

中野 例えば今日は、午後は休みで、深夜からシフトに入ります。深夜勤務は引き継ぎ時間も入れて0時~9時で、それが3、4日続くのですが、そういうときは昼夜逆転の生活です。逆に午前中をうまく使えたりしますね。市役所や銀行の窓口にも行ける(笑)。

——ちゃんと睡眠は取れていますか。

中野 全然眠れなくなってしまう人もいますが、私は結構眠れるタイプです。例えば夜勤で朝9時にシフトが終わって、次の日も深夜零時からだったら、私は頑張って午後2時頃まで起きて、それから夜10時頃まで一気に寝たりしますね。3シフトで全部出勤時間が違うので、有効活用できる時間帯が日によって変わります。いろいろな時間帯にフリータイムを持つことができるのは、プラスかもしれません。

——年末年始も特に関係なく?

中野 全く関係ありません。一昨年は、ここの管制室で年越ししました。宇宙飛行士が各国の年明けの時間に合わせて「おめでとう」って言ってくれるのです。それを聞いて「あ、年が明けたんだな」と思いました。みんなで年越し蕎麦も食べたんですよ(笑)。

——たしかに、お正月だからといって休むわけにはいかないですよね。

中野 シフトが大変だと思うときもありますが、8時間フルにチームで協力して実験を進めているとき、ふと「あ、私は今宇宙ステーションでリアルタイムのデータを見て、実験機器も地上から指令コマンドを送って操作し、このビデオも今本物なんだな」と気づくときがあります。そういうときは、疲れが吹っ飛びますね。

——このお仕事について、女性であることで何か感じることはありますか。

中野 あまりないですね。理工学部に入ったときも女性は少なかったので(笑)、慣れていたこともあります。

——松尾研も今は女性が3人です。

中野 3人って結構多いですよね。NASAはフライトディレクタの3割くらいが女性です。しかも女性のほうが強いんです。管制でも「それは絶対ダメ!」とか、「そんなことは許さない!」みたいな(笑)。

——今JAXAのフライトディレクタの女性は何人いるのですか。

中野 今13人のうちの2人が女性で、1人が訓練中です。「こうのとり」のフライトディレクタは、5人中1人が女性です。運用管制官全体では、3割はいますね。段々と増えています。

——これから技術系の女子学生がもっと増えていけば、フライトディレクタになる女性ももっと増えるでしょうね。

中野 そうですね。母集団が少ないなかで3割というのは多いと思います。

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