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中島基晴:特産品で地域の魅力を発信する

2017/05/01

  • 中島 基晴(なかしま もとはる)

    株式会社中島商店代表取締役
    塾員(平2商)。卒業後、伊藤忠商事株式会社入社。慶應義塾職員を経て、1997年家業の株式会社中島商店に入社、現在同社代表取締役。

  • インタビュアー木村 朋子(きむら ともこ)

    慶應義塾大学入学センター課長

特産品を生み出すアイデアマン

——中島さんは現在、地元・福山の特産品や地域資源を使った商品の企画・開発・販売を手がけられていますが、お仕事について、改めて教えてください。

中島 私の実家でもある中島商店は砂糖・小麦粉・製菓原材料の問屋で、明治42年創業、今年で108年になります。かつてのように、ものを右から左に流せばいいという時代はとっくに過ぎ去りました。何か新しい展開をしなければいけない、そこで、御用聞きだけではなく、流通に自分のアイデアを入れるということを行っています。弊社にとってのお客様は、製菓・製パン・調味料製造業・飲食業などです。お客様に原材料を卸すだけではなく、こちらからも「こういう素材で、こういう商品を作ってみてはいかがですか」と商品企 画を提案することで、新しい事業展開ができるんじゃないかと考えたわけです。

——きっかけは何だったのでしょうか。

中島 東京にいたときから、「帰省したらお土産買ってきて。もみじ饅頭でいいから」とよく言われました。確かにもみじ饅頭も広島土産だけれど、広島市と福山市は100キロ離れていて、安芸国広島と備後国福山とは全く違う。福山にも、たくさんお土産はあったのですが、実は、賞味期限の短いお土産が多かったのです。だから、日持ちのするお土産を開発しようと考えました。

2004年の10月、地元で慶應の先輩と飲んでいたとき、お店に「保命酒」という約350年の歴史を持つ地酒が置いてあった。「これを使って何かできないか」と考えました。

保命酒は健康酒でもあり、リキュールなので、洋菓子や和菓子にも使える。かつて幕末にペリー提督が来航した際、幕府により応接料理に出されたお酒です。また、福山藩主と親交があった福澤先生が、恩師・緒方洪庵の妻である緒方八重に手土産として持っていったお酒でもあるのです。そういった歴史性、物語性のあるお酒で、そこからお土産品ができないかと考え、保命酒を使ったたい焼き、飴、ジェラート、アイスキャンディー、ゼリーの5つを作りました。

——最初から5つとは、すごいですね。

中島 保命酒を軸に1つのコーナーを作ろう、という狙いがありました。飴だけだったら、お菓子のコーナーに埋もれてしまうし、ジェラートやアイスキャンディーだけだったら、その他大勢のアイスの中に埋もれてしまう。けれども、「保命酒スイーツ」というカテゴリーを新たに作れば、1つのコーナーが設けられるのです。保命酒自体も、お酒のコーナーではなく、特別なコーナーを設けてもらえる。

そう考えながら、中島商店のお客様に商品を作ってもらいました。当時、保命酒は健康酒としてのみ売られていたので、それは面白い企画と思って下さり、「お互いにリスクを負いましょう、うまくいけばウインウインになります」という考え方のもと、商品開発を続けました。

売り出してみたら、地元のマスコミにも取り上げていただき、地元の方だけでなく、福山に来た観光客の方も買って帰って下さるようになりました。

150年ぶりに銘酒を献上

中島 保命酒のスイーツは2005年の4月に発売したのですが、その1カ月後、日経新聞で、下田開港150周年の式典に、ペリー提督の子孫の方がいらっしゃるという記事を目にしました。すぐ下田市役所に電話しました。「実はペリー提督が150年前に飲んだお酒が、福山にあるのです」と。下田市の担当の方も、ペリー提督のご子孫をお迎えする応接料理を出したいと考えていて、幕末当時の晩餐会のメニューに書いてあった保命酒を探していたそうなんです。

——絶妙なタイミングでしたね。

中島 そこで、「保命酒は福山の鞆の浦というところで作られているので、それを150年の時を経て献上しに行きます」と伝えました。駐日アメリカ大使など要人約60名の晩餐会で、保命酒を食前酒として出してもらったのです。

即興で英文の説明メモを作り、保命酒の入ったグラスとともにテーブルに置いてもらいました。ただ飲むだけだったら忘れてしまうと思って。

——そのあたりはさすがの機転ですね。

中島 そのあと、日米和親条約の付属条約(下田条約)が締結された了仙寺というお寺でご子孫の食事会があり、保命酒を用いて開発した5品を、お酒とともに召し上がっていただきました。

それがNHKの全国放送に取り上げられたあたりから保命酒の認知度が徐々に上がり、お酒自体の売上も増えていきました。リキュールですから、ビールや発泡酒よりも税率が高いんですよ。だから税金として完全に地域に還元される。いろいろな歴史上の人物が関わっているということで、福山市のプロモーションにもなるわけです。

——企画から販売まで、すべて地域でまかなっているのですね。

中島 備後特産品研究会という、地域資源を使った商品づくりの研究会を立ち上げ、そこを軸に企画を出しています。保命酒は地元産ですから、それを原材料として商品を地元で作り、地元のお土産物屋さんで売ってもらって、そこに利益が落ちる。また、商品を作る過程で、ラベルシールを貼るんですが、それは授産施設の人にお願いして、そこにもお金が落ちるようにする。

あと、商品を買った、あるいはもらった人たち向けに、パッケージにQRコードがついていて、読み取ると福山市の観光情報や、地域の情報を発信しています。このお土産を世界中どこに持っていっても、その場で福山市の観光情報が手に入る。お土産1つ買ってもらうだけで、いろいろと広がるのです。

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