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小野暢夫:京町家を再生し、歴史を引き継ぐ

2017/02/01

様々な宿の使われ方

——京都には老舗旅館のように食事も提供しているところもあります。CAMPTONのように素泊まりというのはありませんよね。

小野 1戸建ての貸し別荘のように、食事は出さないことを前提として、ホテルと、老舗旅館のように食事を出す旅館とのちょうど真ん中ぐらいの位置付けで考えています。

そもそも京都の食事は外で食べて頂いたほうがバラエティに富んでおいしい(笑)。それに京料理と言いますが、2泊、3泊しているとやっぱり海外からのゲストは飽きてくるだろうし、京都もインターナショナルな町で、いろいろなお店がありますから。当館では一流料亭への予約や、仕出し屋さんから宿にお料理を持って来てくれないか、というようなリクエストに応えるサービスを提供しています。

——CAMPTONは1棟貸しという形で12万円ぐらいしますね。

小野 当初オープンした2棟は最大で6名が入ることができて、1泊のお部屋代は10万円を超えます。最初は2名でも6名でもそのワンプライスで行こうと思っていました。しかし、そうするとすべてのホテルサイトで、一番高くなってしまう(笑)。

だから、いまは人数によってお部屋代が上がっていくような形のレートにさせて頂いています。将来的にはワンプライスを実現したいと思っているのですが。

——京都は海外からもたくさんお客さまが来られますが、どういった人たちをターゲットにしているのでしょう。

小野 基本は、インバウンドで、海外の方ですね。自分が以前やっていた海外での事業の経験から、お客さまを京都に呼ぶことができるかもしれないと思っていました。

実際に宿帳で国籍の数だけを見ていくと、日本の方と海外の方とたぶん半々くらいです。ただ、延べ宿泊数にすると、圧倒的に海外の方が多い。

——1人当たりが長いんですね。

小野 そうです。逆に日本の方はほとんど1泊しかされない。ハレの日に1泊という感じなのでしょう。最近の日本のお客さまで一番目立つのは「女子会」ですね。40代から50代ぐらいの学生時代の友人が皆で京都に集まってワイワイやろうよという感じの4人~6人の女性が多いんです。

ホテルになると、部屋は別々になりますが、うちは寝る場所は別々でも、皆が集まれるリビング的な場所があるのでとても好評ですね。一方、海外の方はファミリーが多く、最低でも3泊ぐらいして頂いています。

海外不動産で建物再生

——小野さんは、塾卒業後、最初は住友不動産に入られましたね。

小野 12年お世話になりました。住友不動産では主に住宅畑で新築マンションの開発を手がけていました。自分で買った土地にマンションをつくって、それを自分で販売するという時代もありました。

1994~5年頃、財務系の仕事をさせて頂いていた頃に外資系銀行の方とお付き合いしていたことがあり、ファンド事業という、自分のお金ではなく、投資家のお金で事業をやるという方法を知りました。その中で、シティバンク・プライベートバンクで日本の個人富裕層のお客様と取引している担当者の方を紹介して頂き、その方から、シティで一緒に海外不動産事業をやらないかと誘って頂きました。

新築マンションの開発におけるクラッシュ&ビルドの考え方にストレスを感じていたところでしたので、2000年に住友不動産からシティバンクに移りました。

——シティバンクで仕事をした期間は?

小野 2000年8月から2005年7月までのちょうど5年です。プライベートバンク部門から出向し、系列信託銀行のプライベートバンク部門のバイスプレジデントとして、日本の個人富裕層向けの不動産投資商品の開発をしていました。あんなに楽しくて、やりたいことができ、自分を評価してもらえる場所はありませんでした。

入社2年目の成績優秀者に選んで頂き、世界中の成績優秀者を集めてバルセロナで開かれた役員会で、結婚したばかりの家内と一緒にバルセロナに行き表彰して頂きました。

——それはさすがですね。

小野 その頃に、強く芽生えたのが、古い建物を取り壊すことなく大切に生き返らせていきたいという感覚です。それで、私を誘ってくださった当時のシティの方と2人で、海外で歴史的な建造物をいまに生き返らせるようなファンド運営会社をつくったんです。

——それが株式会社ウィーズ・インターナショナルですね。

小野 最初にオランダ・アムステルダムの旧市街の運河沿いにある石造りの1500年代、1600年代のボロボロの建物をファンドで購入し、外見を変えずに中を現代でも使える仕様にリノベーションして、ピカピカにしてテナントを付ける。弁護士事務所や設計事務所が入ってくれました。そういうビルを13、4棟ぐらい購入し、そのうちの1棟は、映画の撮影に使われてたこともあるんです。

建物が生き返るというのはどういうことかというと、単純に見栄えが生き返るだけではなくて、使ってもらってようやく生き返ると思っています。その集大成がオーストリアのウィーンでの元貴族のパレスの投資事業です。

——スケールがすごい(笑)。

小野 そのパレスは土地が6000坪ぐらい、建物が5000~6000坪ぐらいあったんですけど、両側にウイングがあって、リノベーション後に片方を郵便局、片方を銀行に賃貸しました。そして真ん中の建物は、もともと社交界の舞台みたいなホールがあったので、そこをウィーンの交響楽団の練習ホールとして貸して、上層階は小さく分けてSOHO仕様にしました。外側は変えずに、中はセキュリティも含めて銀行が使うにも耐え得るようにリノベーションしました。そうやって古きよき時代の建物を生き返らせました。

だから、いま京都で町家の再生をやっているのは、まったく偶然なんですが、気持ちの上でのつながりというのは、やっぱりあるんです。古い建物や街並みを大切にして生き返らせていきたい。建物がやっぱり好きなんですよね。

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