三田評論ONLINE

【話題の人】
小野暢夫:京町家を再生し、歴史を引き継ぐ

2017/02/01

  • 小野 暢夫(おの まさお)

    CAMPTON株式会社 代表取締役
    塾員(昭63 政)。住友不動産、シティバンク・エヌ・エイ、株式会社ウィーズ・インターナショナルを経て、2015 年9 月CAMPTON を設立。

  • インタビュアー山田 真(やまだ しん)

    帝人ファーマ株式会社部長・塾員

京町家との出合い

——歴史ある京町家を再生し、それを一棟貸しの宿として提供するCAMPTON(ケンプトン)が話題です。小野さんは2015年の9月にこの会社を設立したんですね。

小野 その年の2月に、京都高台寺「ねねの道」沿いにある、いまCAMPTON本社が入っている数寄屋造りの町家に出合い、ご縁を頂いてビジネスをさせて頂きました。そのときに、「町家を売却したい方がいるが買うか?」というお話を頂いたのです。町家を宿として提供しているところがすでにあったので、こういうのもビジネスになるのか、面白いかもしれないなと思いまして。

——どのような考えで、京町家を宿として再生しているのでしょうか。

小野 CAMPTONは、京都の街並みの保全と京町家の再生、という観点から、管理が行き届いていない町家を、壊して新築するのではなく、以前からの趣のある町家に再生していくことを大きな方針としています。土地だけが不動産の主役ではなく、建物が培ってきた時間や歴史は買えないという考えからです。

100年経過した木造家屋にはその年月分の趣や歴史があります。その歴史を持った建物を壊して新築すると、その新しい建物が100年の歴史を持つためには、100年の時間を要する。その時間を短縮して同じ味わいを持たすことはできないのです。

買って造って市場で儲ける、という経済行為の中に、旅館業という事業を通じて、決して買うことのできない時間や歴史を、建物を通じて時世に引き継ぐ。自分たちはこの建物を介した長い歴史の参加者であり、この歴史や時間を一時的に預かっている、という意識を持って活動しています。

——古い町家はかなり傷んでいるものもあります。どういった家を選んでいるのですか。

小野 京都の町にはきれいな町家もたくさん残っています。しかし、町家というのは維持するのに、ものすごくお金も手間もかかるので、きれいな形で町家を残していらっしゃる方はお金持ちの方なんです。そういう方から譲って頂けることはありません。我々がご縁を頂き、購入させて頂いている不動産は、町家から一戸建てに変えようかと検討されている、かなり傷んだ家や、街中のいい場所にあるのだけど、建物自体が古く不便なので、オーナーはマンションに住んでいて空き家になってしまっている家です。

我々は、白い漆喰を外壁に塗って焼杉の板を付けて、いわゆる町家風にしています。でも、もともとの外観にトタンを貼ってしまっていたり、サイディングの屋根を付けてしまったりしている家もある。それをきちんと元の町家に戻してあげるのが、我々の事業です。

京都の人とのつながり

——近隣の京都の人たちは、ウェルカムという感じだったのでしょうか。

小野 京都の人とのお付き合いは難しいと言われていますが、我々の場合は、最初から非常にお世話になっています。京都の方にも株主で入って頂いて、パートナーシップを組ませて頂き、京都独特の商習慣や商文化を教えて頂きながらやってきました。もちろん京文化を理解するという苦労はありましたが、よそ者が一生懸命頑張っているぞ、という感じで可愛がってもらっています。京都でのパートナーが見つかったこともラッキーなことでした。

私のビジネスをする上での基本は、「郷に入れば郷に従え」です。自分に知識があるからと言って我を出し過ぎると、絶対に反発を食う。その中で自分がやりたいことをいかに伝えていくかが、大切だと思います。

——1つ1つの建物にコンセプトをつくって、家具やお風呂などに細かくこだわっているそうですね。

小野 築年数百数十年という物件もあり、建物の中は相当手を入れないと不便なんです。1階はすべて、お風呂の洗い場にも床暖房を入れ、寝室に関しては基本的には布団ではなくベッドを設置しています。

また、お風呂のバスタブにはこだわって、コウヤマキ(高野槙)を使っています。マキの木は、船の底板に使うくらいなので水に強く、お湯を張ったときにすごくいい香りがするんですね。僕らはもともとホテルマンではないので、自分たちで勉強していくしかありません。いろいろなホテルや旅館の良いところを取り入れ、人に聞いてそれを生かしていくようにしています。

——アドバイスをしてくださる方がまわりにいっぱいいらっしゃる。

小野 特に女性にたくさん助けてもらっています。名刺のロゴを描いて頂いたのも女流の書家さんです。その方に紹介して頂いた元芸妓さんに、アメニティを探しているという話をしたところ、いま当館で提供している「京都ちどりや」さんを紹介して頂きました。ハイアットリージェンシー京都や長楽館等の名だたるホテルと同じアメニティを提供させて頂いています。

お隣の高台寺和久傳(わくでん)さんという老舗料亭の女将とも非常に仲良くさせて頂いて、宿泊のお客さまもご紹介頂いています。

——小野さんの成功に女性ありということですね(笑)。ちなみに、このCAMPTONという名前の由来は?

小野 いままで宿泊したことがあるホテルで僕が一番好きなホテルから頂きました。キャンプトン・プレイスというサンフランシスコのホテルです。このホテルはエレベーター以外は自動ドアがない。車をつけるとポーターが来て荷物を持ち、ドアマンがドアを開けてくれて、ポーターが荷物を部屋まで運んでくれる。入った瞬間に人の手でラグジュアリーにしてくれるという、本当に宿泊者を幸せにしてくれるホテルです。

そこで、「ケンプトン」と、ちょっとイギリス読みみたいにして、名前を付けさせて頂きました。

カテゴリ
三田評論のコーナー

本誌を購入する

関連コンテンツ

最新記事