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【演説館】
海老澤 美幸:ファッション産業のクリエイティビティを守る「ファッションロー」

2025/08/19

ファッションデザインと著作権法

著作権は、音楽や小説、絵画などの創作的な表現を保護する権利で、登録は必要なく、創作した瞬間に自動的に発生するのが特徴である。

「ファッションデザインは当然に著作権で保護されるのでは?」と思われがちだが、実は、服や小物など大量生産を前提とした実用品のデザインが著作権法で保護されるかどうかには一大議論がある。現在は「実用的な機能から離れて独立して美的鑑賞の対象となる美的創作性を備えている」場合に保護されるという考え方が主流といえる。この背景には、「実用的なデザインは意匠権で保護すればよい」という棲み分けの発想があるようだ。

例えばキャラクタープリントや写真プリントなどは、服の実用的機能から離れて独立して美的鑑賞の対象となりやすく、著作権で保護されやすい。

他方、衣服の形状は、どうしても袖や身ごろなどの実用的機能に縛られやすく、アート作品のような奇抜さや独創性がない限り、独立して美的鑑賞の対象となりにくい。このように、ファッションデザインが著作権により保護されるハードルは高いのが実情だ。

ファッションデザインと意匠法

意匠法は、物品(物品の部分を含む)の形状、模様や色彩、もしくはこれらの結合等で、視覚を通じて美感を起こさせるもの、いわゆるプロダクトデザインを保護の対象としている。新規性・非創作容易性などの要件を満たす場合に、物品とセットで登録することにより保護を受けられる。

まさにファッションデザインの保護にぴったりのシステムなのだが、我が国のファッション産業においては、一部のラグジュアリーブランドやスポーツブランドなどを除き、意匠登録制度が十分活用されているとはいい難い。

ファッション産業では、主に春夏シーズンと秋冬シーズンの年2回、新作を発表・展開する。つまり、ファッション製品はおおむね6か月程度で売り切ることが予定されている。ところが、意匠登録には出願から6か月~1年程度かかるため、時間や費用をかけて出願しても、登録される頃には販売が終了してしまうことも少なくない。

意匠登録の出願は原則としてデザイン公開前、遅くとも公開後1年以内に行う必要があるが、売れ行きが見極められないまま出願のタイミングを逸することが多いという理由もある。

デザインと不正競争防止法

ブランド名やロゴ、形状などを含むファッションデザインとの関係で最も多く登場するのが不正競争防止法である。

適用される場面に応じて、有名なブランド名やロゴなどを保護する同法2条1項1号・2号と、形態を保護する2条1項3号の2つに分けられる。

(1)2条1項1号・2号による保護

他人の周知・著名な商品等表示、つまり有名なブランド名やロゴなどを保護するのが2条1項1号・2号である。商標権と異なり、2条1項1号・2号は登録が不要である点や、同一の商品やサービスの範囲に必ずしも縛られない点が大きなメリットといえる。

商標権と同様、形状や柄などについても、商品の出所を示すほど有名なものは2条1項1号・2号で保護される。

(2)2条1項3号による保護

2条1項3号は、「他人の商品の形態(当該商品の機能を確保するために不可欠な形態を除く)を模倣した商品」の譲渡等、いわゆる形態のデッドコピー(丸パクリ)を規制している。

前述のとおり、著作権による保護のハードルが高く、意匠権は使いにくいという実用品デザインの保護の隙間を埋めるのが、この2条1項3号である。実際、ファッションデザイン(形状など)の模倣事案はほぼ同号の問題であり、筆者は「ファッションデザイン模倣の最後の砦」と位置付けている。

商品の開発には多くの資金や労力が投入される。他人がこれを模倣し、リスクを負うことなく利益を上げるのはフェアではないことから、こうした行為を規制し、投下資本の回収の機会を確保するのが同号の趣旨だ。

同号は、商品形態の「模倣」を規制するが、「模倣」とは「他人の商品の形態に依拠して、これと実質的に同一の形態の商品を作り出すこと」と定義されている。では、具体的にどこまで似ていれば実質的に同一の形態といえるのか? 法律にはこれ以上の定義がないことから、蓄積された裁判例から基準を探ることになる。この点は議論があるが、筆者の私見としては、裁判所は、実質的同一性の判断に当たり、重要な部分が共通しているか、相違部分が事業者にとって容易な変更か、相違部分により消費者に異なる印象を与えるか、といった点を重視しているのではないかと考えている。

最近の事例をご紹介しよう。裁判所は、図2のドレスを比較検討し、基本的形態やスカートのギャザーの数・位置も一致しており、ビジューの列、谷間ホールのサイズ、色などの違いはあるものの、大きな印象の違いはなく、実質的に同一であると判断している(東京地裁令和5年10月18日判決)。

図2 原告商品(左)と被告商品(右)出典:裁判所ウェブサイト

さいごに

ファッションローが、横断的に法律を駆使しながら、クリエイティビティを保護し産業の発展を後押しする役割を担っていることをおわかりいただけたのではないだろうか。筆者自身は、ファッションローを、ファッション産業の特殊性を踏まえ、業界に寄り添い最適な解決策を導くツールであると捉えている。

ファッション産業を取り巻く環境は大きく変化しており、グリーンウォッシングや文化の盗用、越境EC、AI技術やバーチャル市場など、これまでにない新たな問題や課題に直面している。ファッションローが、こうした問題や課題からファッション産業やクリエイティビティを守る盾となれるよう、筆者自身も尽力していきたい。

〈注〉
*1 経済産業省「ファッションローガイドブック2023~ファッションビジネスの未来を切り拓く新・基礎知識~」 (https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/fashionlaw_wg/20230331_report.html) 筆者も「ファッション未来研究会~ファッションローWG~」の副座長として取りまとめに関わった。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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