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【演説館】
海老澤 美幸:ファッション産業のクリエイティビティを守る「ファッションロー」

2025/08/19

  • 海老澤 美幸(えびさわ みゆき)

    弁護士、ファッションエディター・塾員

「ファッションロー」という言葉を聞いたことがあるだろうか。ファッション産業やビジネスに関わる法律問題を取り扱う法分野である。

本稿では、ファッションローがカバーする膨大なテーマのうち、昨今SNSなどでもしばしば話題となる「ファッションデザインの模倣」について概説したい。クリエイティビティを保護し、ファッションビジネスを後押しするファッションローの一端を知っていただく機会となれば幸いである。

ファッションローの歴史と意義

ファッションローという概念が体系化された歴史は意外に新しく、2000年代初頭に米国フォーダム大学ロースクールにおいて提唱されたのが始まりとされる。その背景には、1) デジタル技術や製造技術等の科学技術の発展、2) ファストファッションの台頭、3) 巨大なファッションコングロマリット(巨大企業体)の登場という3つの要因があるといわれている。

日本でも、2014年のファッション・ロー・インスティテュート・ジャパン発足以降、多くの関係者の尽力によりファッションローの重要性が認識されつつある。2023年には経済産業省から日本初の「ファッションローガイドブック*1」がリリースされたことも、その表れといえるだろう。

デザインの模倣と法システム

服の画像を並べ「コピー品だ」と投稿するポストに何万もの「いいね」が付くなど、近年、ファッションデザインの模倣が多くの人々の関心を集めている。

実はファッションデザインには、著作権法、意匠法、商標法、不正競争防止法等の異なる法律が複雑に関わっており、各法律の概要と適用場面を整理し把握することが重要となる。

ファッションデザインと商標法

商標権は、ブランド名やロゴなど、自己の商品やサービスと他人の商品やサービスとを識別する識別標識を保護する権利である。ルイ・ヴィトンの名称やシャネルマークなどが典型例だ。ブランド名などを使用する商品やサービス(指定商品・指定役務)とセットで登録する必要があり、この指定商品・指定役務と同一・類似の範囲で保護されるのが商標権の特徴の1つといえる。

商標権がしばしば問題となるのが、有名ブランドのロゴなどをモチーフに風刺やユーモアを表現する「パロディ」ロゴである。日本においては「パロディ」を保護する特別な規定はなく、商標法や後述の不正競争防止法の基準にしたがい判断されるため、どんなに風刺やユーモアを込めたとしても、元のロゴと類似していれば商標権侵害や不正競争防止法違反の可能性が高い。例えば、図1のパロディロゴは、Championロゴと混同を生じるおそれが高いとして登録は無効と判断されている。

図1 Championロゴ(上・左下)とこれをパロディ化したNyanpionロゴ(右下) 出典:審決別紙

また、近時のサステナビリティの流れを受け、リメイクやアップサイクルの商標権トラブルが増えている。リメイクやアップサイクルの際、元のブランド名やロゴなどが残っていると商標権侵害や不正競争防止法違反のリスクがあるため、注意が必要だ。

ブランド名やロゴだけでなく、形状や柄などについても、そのデザインを見るだけで特定のブランドと識別できるほど有名なものは商標登録が可能である。例えば、エルメスの著名なバッグ「バーキン」やバーバリーのチェック柄などが商標登録されている。

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