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【演説館】
松下 幸生:ギャンブル依存の理解を深めるために

2024/12/13

ギャンブル依存のタイプと特徴

ギャンブル依存の成因としてパスウェイモデルが提唱されています。このモデルは、ギャンブル行動症を①行動的条件付け、②情緒的に脆弱、③反社会性・衝動性の3つに分類するものです。行動的条件付けは、ギャンブルを繰り返す間にだんだんはまっていくタイプです。情緒的に脆弱なグループは、ネガティブな気分から逃れるためにギャンブルをすることが動機になり、自己治療的なギャンブルと言えます。反社会性・衝動性のグループでは、ギャンブル依存のリスクである衝動性の高さが特徴で、ギャンブルによる刺激や興奮を求めることがギャンブルの動機になります。

ギャンブル依存の特徴として、ギャンブルに対する独特の考え方があり、以下のものが知られています。

A 迷信──お守りなどの特定の物を持っていると、勝つ確率が高くなるなど。

B 解釈の偏り──①ギャンブルのスキルや能力などを過大に評価して、運や確率などを過小評価する、②負けが続くと勝ちが近いと信じる、③経済的損失を回復する唯一の方法はギャンブルを続けることだと信じる。

C 選択的記憶──選択的に勝ったことだけを思い出し、負けを思い出すことが困難なこと。

D 予測スキル──ギャンブルについて主観的に意味のある手がかりに基づいて決める。手掛かりには内的なもの(身体感覚、直観など)や外的なもの(気象現象、偶然の出来事など)などがある。

E 運をコントロールできるという錯覚。

F ギャンブルの結果を特定の状況と結び付けたり、因果関係を信じたりする──例えば、①夜によく勝つことに気づく、②週の特定の曜日は勝つことが多いと気づくなど。

このような考え方は病的なもののように思われるかもしれませんが、その一部は、プロスペクト理論で説明することができます。プロスペクト理論とは、行動経済学の理論で2002年にノーベル経済学賞を受賞した研究です。損失回避性とも呼ばれ、人は損失に対して過剰に評価する傾向にあり、現実の損得と心理的な損得とが一致しないことを指します。例えば、投資家が損失を回避するために、利益がある場合は早めに売却する傾向にあり、その反対に損失が出てしまっている場合は、たとえリスクを冒してでも損失分を取り返そうという心理が働くと説明されます。

損失が出ている局面でリスクを取ることは一見矛盾した考え方にも思えます。しかし、これは、人間は自分が有利なときは安定志向で、自分が不利なときはリスク志向になる傾向が強いために起きてしまう思考と言われます。ギャンブルによって借金ができている状況でもリスクを冒してギャンブルを継続することの一部は、このような理論でも説明できると思われますが、いかがでしょうか。

また、ギャンブル依存の人と依存ではない人を比較したfMRIを用いた研究によると、ギャンプルに関連した画像によるギャンブルの刺激によって引き起こされた渇望と両側の島の活動が比例することが報告されています。脳の機能に変化がみられることが指摘されていて、脳科学研究から報酬や興奮に対する感受性、負けの深追い、ストレス調整不全などギャンブル依存症でみられる臨床的特徴と脳の機能の変化との関連が示唆されています。

ギャンブル依存を早く見つけるには

ギャンブル依存は早く見つけることが難しい病気です。最近はインターネットを使ったギャンブルも一般的になり、隠れてギャンブルすることが容易になりました。家族も知らない間に借金が膨らんでいることもあります。

もし、ギャンブル問題が発覚しても、責めたり感情的になったりせずに冷静に話し合う姿勢が大切です。心配していることを伝えて医療機関や精神保健福祉センターなどの公的相談窓口にご相談いただくのが良いでしょう。もし、ご本人が受診や相談に同意してくれなくても、ご家族だけの相談にも応じてくれます。家族向けの自助グループ(ギャマノンやギャンブル依存症家族の会など)に相談することもできます。

ギャンブル依存の治療法は?

ギャンブル依存の治療には治療薬はありません。心理社会的治療や自助グループ参加が治療の中心です。また、ギャンブル問題で強い影響を受けているご家族へのサポートも大切です。独特の考え方を修正する認知療法、普段の生活や行動を変えることで、ギャンブルから離れやすくする行動療法の2つを合わせた認知行動療法が標準的な治療です。ただひたすらギャンブルを我慢するだけでは長続きしませんが、病気についてよく理解してもらうことで、より長く止め続けることができ、その効果は科学的にも実証されています。

また、ギャンブラーズ・アノニマス(GA)という自助グループに参加することも回復につながります。GAは、1957年にロサンゼルスで始まり、世界中で行われています。詳しくはGAのホームページをご参照ください。そして、家族に対するサポートも大切です。家族を対象とした家族会を開催する病院もありますし、ギャマノン、全国ギャンブル依存症家族の会、ギャンブル依存症問題を考える会などの相談窓口があります。ご家族にもギャンブル障害という病気についてよく理解してもらい、当事者との接し方や家族として注意する点など具体的なアドバイスが得られます。

ギャンブル依存のご家族はどのようなサポートができるでしょうか

ギャンブル依存で秘かに借金に苦しんで苦しんでいる人がご家族に相談されることもありますが、借金の肩代わりはしないようにしましょう。肩代わりすると、ご自身でギャンブル問題に向き合えなくなります。経済的支援はできないけど、回復の支援はすることを伝えて、専門医療機関への受診を促しましょう。ギャンブル依存には全国に拠点となる医療機関や相談機関があります。詳しくは依存症対策全国センターのホームページを検索してください。

ギャンブル依存症は、一般的にはまだよく理解されていない病気です。ギャンブルを止められないことについて、自分の性格や意志の弱さといった問題と考えられることが多く、なかなか病気の症状とみなしてもらえません。患者さんご自身もそう思われていることが多く、治療や支援を求めることを躊躇する原因の1つになっています。社会のギャンブル依存への理解が進むことによって、より多くの当事者が治療や支援を求められるようになり、回復が進むことが望まれます。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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