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【演説館】
松下 幸生:ギャンブル依存の理解を深めるために

2024/12/13

  • 松下 幸生(まつした さちお)

    独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター院長・塾員

ギャンブル依存への注目

ギャンブルの問題は、かつて、大手企業経営者の背任事件の背後にカジノでの浪費があったり、最近では、メジャーリーガーの通訳が違法ギャンブルで犯罪行為を行うなど、時に社会の注目を集めることがありました。これまでは、依存を専門とする医療関係者の間でもあまり注目されることはなく、ごく一部の医療者によって診療が行われている状況が長く続いていました。この状況を一変させたのは特定複合観光施設(IR)推進法によって、カジノがわが国でも合法化されたことによります。新たなギャンブルであるカジノの解禁によって、ギャンブル問題の増加が懸念されることから、2018年にギャンブル等依存症対策基本法(以下基本法)が成立して、社会的にも注目されるようになりました。

また、基本法の成立により、政府や地方自治体もギャンブル問題に取り組むことになり、依存症対策推進基本計画が策定され、2022年3月25日に閣議決定されました。

ギャンブル依存の病名について

カジノの影響でギャンブル依存という言葉はよく知られるようになりました。ただ、病気としての理解は進んでいないように思われます。いわゆるギャンブル依存は、1890年にアメリカ精神医学会が作成して世界で用いられる診断基準であるDSM第3版で「病的賭博(Pathological Gambling)」という病名で定義されたのが最初で、疾病の分類としては衝動制御障害に分類されていました。同じ分類の他の疾病には、抜毛癖や盗癖などが含まれ、依存とはみなされていなかったのです。

しかし、アルコール依存や薬物依存など他の依存と共通する点も多いことから、2013年に改訂された第5版で、ギャンブル障害と病名が変更になって、嗜癖性障害に含まれることになりました。アルコールや依存性薬物への依存を物質依存と呼ぶのに対して、ギャンブルやネットゲーム、まだ正式には診断基準には含まれていませんが、買い物、窃盗、セックスなど行為に対する依存は行動嗜癖と呼ばれます。現在、ギャンブル依存はギャンブル障害あるいはギャンブル行動症が正式な病名ですが、ここでは「ギャンブル依存」と呼びます。

ギャンブル依存の症状と実態

ギャンブル依存の症状には、ギャンブルをしていることや、のめり込みを隠すために嘘をつく、ギャンブルで負けたお金をギャンブルで取り戻そうとする(負けの深追い)、ギャンブルをするために借金をする、止めよう・減らそうとしても成功しないといった症状がよく見られます。最近の調査によると、ギャンブル依存の有病率は、成人男性の2.8%、成人女性の0.5%と推計されますが、家族や大切な人にギャンブルの問題がある人は、成人人口の14%にも達し、ギャンブルの問題は日本人にとって身近な問題と言えます。

ギャンブル依存の人は、ギャンブルを始めて暫くの間は、ギャンブルを楽しむこともできますが、借金などの問題が大きくなってくると、お金を稼ぐことが目的になって楽しめなくなります。ギャンブルによる経済問題やご自身の健康問題などが生じてくると、うつ・不安、自殺、犯罪など関連する問題が発生してきます。家族に対する影響も大きくなり、信頼関係が壊れたり経済問題が発生したりしてご家族にとっても強い負担になります。

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