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【演説館】
丸山 洋平:東京区部の人口流入とシングル化が投げかけるもの

2024/10/23

ミドル期シングルが暮らす東京区部はどう変容していくか?

東京圏外から転入したミドル期人口の方がシングル化していることをライフコースの多様性から考えてみたいと思います。現代社会は多様性が増す社会です。ミドル期でも1人暮らしをしているというのも多様化したライフコースの1つの結果ともいえます。それは必ずしも思い描いたライフコースではないかもしれませんが、標準家族と呼ばれた「サラリーマンの夫と専業主婦の妻、2人の子ども」という画一的な家族形成を強いられる社会ではなくなってきているという面もあります。

画一的なライフコース、それも伝統的規範意識の強いものは地方圏、その中でもとくに“田舎”と表現できる地域には、相対的ですが今なお残滓があります。そこにある男尊女卑にも近い性別役割分業意識という負のイメージからの逃避という意味が、地方圏から東京区部への人口移動により強く反映されるようになってきたのではないでしょうか。そうした移動を試みる人々が考えるのは、画一性からの脱却と多様性への渇望であり、多様性を許容する環境が地方圏よりも大都市圏、とりわけ東京区部にあるという希望があるのだと思います。

しかし、大都市圏での多様性の許容度は相対的に高いにすぎず、必ずしも必要十分な水準に達しているとは言えません。それは例えば、近年のワークライフバランスやリモートワークの議論、あるいはジェンダーやセクシュアリティの議論にも表れています。それでも地方圏に比べて“まし”であれば、東京圏や東京区部への人口流入は続くでしょうし、それに応じてシングル層の生活実態もさらに多様化すると思われます。

ミドル期シングルが多い東京区部はどのような地域に変容していくのでしょうか。まず、将来的に家族を持たず、社会的に孤立しやすいミドル期シングルのさらなる増加は生じるでしょう。さらにその一部は非正規雇用による不安定な経済状況に置かれ、新たなアンダークラスを生じさせる可能性もあります。そうした人々が高齢期を迎えれば、東京区部は薄氷の生活を送る人々が集住する場へと変わっていくかもしれません。

一方でミドル期および高齢期シングルが増加することをポジティブに捉え、シングル向けの各種サービスを官民共同で創出することができれば、東京区部がシングルフレンドリーな地域として最先端を走る可能性もあるでしょう。結婚を選択せず、積極的にシングルであることを選択する自由を享受できる場になれば、その成立過程で多様性を広く、深く許容する社会になっていくでしょうし、それがさらなる東京圏内出身者のシングル化、東京圏外出身のシングルの転入増加につながるかもしれません。

いずれにせよミドル期シングルが全国的に増加していくことは確実であり、東京区部はつねにシングルがもたらす新しい社会課題に向き合い、その答えを模索する場になっていくのではないでしょうか。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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