三田評論ONLINE

【演説館】
丸山 洋平:東京区部の人口流入とシングル化が投げかけるもの

2024/10/23

  • 丸山 洋平(まるやま ようへい)

    札幌市立大学デザイン学部准教授・塾員

『東京ミドル期シングルの衝撃──
「ひとり」社会のゆくえ』出版までの道のり

2024年4月に東洋経済新報社から『東京ミドル期シングルの衝撃──「ひとり」社会のゆくえ』が出版されました。ミドル期とは35~64歳のことで、従来であれば当然のように結婚して家族を作っていると考えられていた年齢層において、単身者(シングル)が増えてきています。本書はこうしたミドル期のシングル化が東京区部で卓越していることに着目し、その理由や社会への影響を分析して、これから私たちが取り組むべき課題の枠組みの提起を試みたものです。私は共著者として人口移動の観点から、第2章「東京区部への移動とシングル化」の執筆を担当しました。出版後はありがたいことに書評等でさまざまなメディアに取り上げられることとなり、今回の執筆機会をいただきました。

本書におけるミドル期シングルについての研究起点は、新宿区役所の新宿自治創造研究所で2013年度から3年間にわたって実施された単身区民の生活をテーマにした研究で、博士課程を単位取得退学したばかりの私は非常勤研究員として関わっていました。高齢者シングルの増加が社会課題として認識されていた一方で、ミドル期シングルも大きく増加している事実はあったものの、基本的には問題の少ない世代として認識されてしまっていました。そんな中、新宿区はミドル期人口のシングル率が全国的に見て突出して高く、彼ら彼女らが加齢した将来には高齢単身者になってしまうことに強い問題意識を持ち、その生活実態を明らかにするための調査を実施しました。その結果、新宿区という東京都心地域において、ミドル期シングルの多様な生活実態が浮き彫りとなりました。そして経済的リスクと社会的孤立リスクの面から早急な支援を要する層が存在していることも明らかとなったのです。

この新宿区での研究の後、より広く東京区部のミドル期シングルの生活実態をとらえるべく、2019年度から2年間にわたって特別区長会調査研究機構にて、研究プロジェクト「特別区における小地域人口・世帯分析及び壮年期単身者の現状と課題」が進められることになりました。東京区部のマクロ的な人口・世帯分析に加え、世田谷区、豊島区、墨田区を対象とした意識調査とインタビュー調査を実施し、ミドル期シングルの人間関係や暮らしの実態に接近した研究成果をまとめたものが今回の出版につながっています。

私はこの一連の研究の中で、人口移動が東京区部のシングル化の進展や卓越に与える影響というマクロ的な地域人口分析を担当してきました。新宿区や東京区部は周辺や地方圏からの人口流入が続く地域である一方で出生率は低く、ミドル期人口のシングル化が卓越する地域でもあります。これらの要素がどのように相互に関連しているのかというのが、私が継続して持つ分析視角であり、以下ではこうした視点から東京区部の人口移動とシングル化の実態を踏まえ、ミドル期のシングル化によって東京区部がこれからどのように変容していくのかを考えてみたいと思います。

東京区部の人口移動とミドル期のシングル化

具体的なデータを見ながら東京区部の状況を見てみましょう。結論から先に述べると、東京区部に居住するミドル期人口で東京圏内出身者と東京圏外出身者を比較すると、後者のシングル率が高く、東京圏と地方圏間の人口移動が東京区部のシングル化の卓越に結びついている状況が示されます。

国勢調査からミドル期シングル率を算出すると、1980年の全国値は4.7%です。5%を下回っていることからわかるように、およそ40年前はミドル期では結婚して自分の家族を持つ人が大半を占め、シングルはマイノリティでした。そのシングル率が上昇していくわけですが、この背景には未婚化の進展があり、晩婚化・非婚化といった家族形成行動の変化があります。ミドル期のシングル化には地域差もあり、東京圏および東京区部でより卓越しています。1980年には全国4.7%、東京圏5.7%、東京区部9.4%であり、2020年は順に15.8%、19.1%、27.5%で、40年間の上昇は11.1ポイント、13.4ポイント、18.1ポイントです。東京区部のミドル期シングル率は時系列変化を見ても圧倒的に高い水準にあることがわかります。

なぜ東京区部において、ミドル期のシングル化が卓越するようになったのか。これを人口移動との関係から考えてみます。転入超過数の大きさに牽引され、東京区部の人口は増加が続いています。この転入超過の年齢パターンには変化が生じています。東京区部や東京圏の年齢パターンはバブル期頃までは、10代後半から20代前半にかけて転入超過となり、20代後半以降は転出超過となっていました。これは前者が進学や就職を目的とした移動、後者がUターン等の帰還移動を反映するものでしたが、21世紀に入ると30代以降も転入超過になり、ミドル期人口の東京区部や東京圏への集中傾向がより強まっています。これが近年の都心回帰を牽引する人口移動のパターンにもなっています。

ここで私が考えたのは、東京区部に居住するミドル期人口のうち、東京圏内出身者よりも東京圏外出身者の方が、シングル率が高いという関係であり、人口移動がシングル化を促進するという仮説です。というのも人口移動経験と家族形成行動との関係には国際的にさまざまな研究蓄積があり、日本でも大都市圏への移動経験者の出生率が低かったり、生涯未婚率が高かったりすることが明らかにされています。それと同じ枠組みをミドル期のシングル化にも適応できるのではないかと考えたのです。

このような関係があることを明らかにするべく、国立社会保障・人口問題研究所による人口移動調査の結果と国勢調査を組み合わせ、東京区部に居住するミドル期人口のシングル率を東京圏内出身者と東京圏外出身者に分類して推定しました。残念ながら人口移動調査は都道府県単位までしかデータがないため、東京区部の状況を東京都のデータで代替しています。

その結果を示したのが図1です。男女とも東京圏外出身者の単身者率は東京圏内出身者よりも高い結果となりました。つまり、東京圏外から東京区部へと転入し、都心回帰に寄与している人口集団が、東京都全体の単身化を促進する効果を持っているということです。データの推定ができる6時点について、出身地による単身者率の較差は男性で4.3%ポイント~11.1%ポイント、女性で0.9%ポイント~3.1%ポイントあり、較差は男性の方が大きいことがわかりました。男性は単身者率の水準も高く、東京圏外からの転入者が東京都の単身者率を引き上げる効果も大きいということになります。

資料:国勢調査、人口移動調査
図1:出身地別に見た東京都ミドル期人口の男女別シングル率
カテゴリ
三田評論のコーナー

本誌を購入する

関連コンテンツ

最新記事