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【演説館】
水野 祐:DXのためのリーガルデザイン

2021/03/18

  • 水野 祐(みずの たすく)

    弁護士[シティライツ法律事務所]、Creative Commons Japan 理事・塾員

はじめに

デジタル庁(仮称)創設に向けて、2021年2月にいくつかのデジタル改革関連法案が閣議決定され、1月に招集された第204回通常国会での成立が予定されている。本稿では、まず直近で閣議決定されたこれらデジタル改革関連法案の内容を概観したうえで、なお残された課題と、DX(デジタル・トランスフォーメーション)のためのリーガルデザイン(法のデザイン)の本質について私見を述べてみたい。

DX基本法としての形成基本法と実務的な影響が大きい関係整備法

まず、デジタル社会形成基本法(以下「形成基本法」)である。形成基本法は、目指すべき「デジタル社会」を定義したうえで(2条)、「基本法」の名のとおり、10の基本理念を規定し、その基本理念にのっとった国、地方公共団体、事業者の責務を定めている。民間が主導的な役割を担うことを原則として(9条)、事業者の責務をも規定している点が特徴的だ。また、本法と同時に閣議決定されたデジタル庁設置法(案)の根拠法ともなっている。デジタル化は手段であり、デジタル化によって実現したい社会像が曖昧であれば画餅に帰しかねない。デジタル社会形成基本法により、今後政府が目指す「デジタル社会」(2条)像が明文化されたことは1つの収穫だ。今後は、同法を抽象的な理念法として形骸化するのではなく、下位法や独自条例の根拠法として政策に活用していくことが期待される。

形成基本法の基本法としての重要性は言うに及ばないが、実務的な影響がより大きいのはデジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律(以下「関係整備法」)だ。上記形成基本法に基づきデジタル社会の形成に関する施策を実施するため、①個人情報保護制度の見直し、②マイナンバー制度の効率化とマイナンバーカードの利便性の抜本的向上、③押印・書面の交付等を求める各手続の見直しを内容とする。上記①については、個人情報保護法、行政機関個人情報保護法、独立行政法人等個人情報保護法の3つの法律により個人情報保護に関して企業、国・自治体・独立行政法人とがそれぞれバラバラの規律になっていた問題(いわゆる「2000個問題」)を一本の法律に統合し共通ルールを規定することになった。また、上記③については、不動産分野などの慎重な取引が求められる場面において法律上押印や書面化が義務付けられている取引等がある。これらがクラウドサイン等の電子契約の導入にとってハードルになっていたが、押印義務について廃止、書面化義務については緩和されることになった。

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