三田評論ONLINE

【演説館】
中空 麻奈:サステナブルファイナンスとポストコロナの経済復興

2021/01/20

国の変化──中央銀行・政府の関わり

2050年のカーボンニュートラルを世界に先駆けて宣言した欧州では、すでに国、中央銀行が積極的にサステナブルファイナンスに関わっている。次世代EUにおいて、温室効果ガスの55%排出削減(1990年対比)、グリーンボンドを2250億ユーロ相当発行、エネルギー効率の32.5%の引き上げなどが宣言され、グリーンインフラや電気自動車、CO2の回収などの分野にあてていくことを決めている。2017年のフランスのグリーン国債発行を皮切りに、ベルギーやドイツなどがそれに続いてもいる。

また、中央銀行のESG投資戦略も進んでいる。スウェーデン中銀は、温室効果ガスを出しているという理由でカナダのアルバータ州債やオーストラリアのクイーンズランド州債などを投資対象から外したり、フランス中銀はESGスコアの下位20%を対象外にしたりする、など能動的に実行している。こうした積極的なESG投資は監督当局として金融機関の損失リスクを管理するストレステストを実施する際にも利用されることは想像に難くない。

新しいサステナブルファイナンス

さらにこの市場の拡大に寄与する新しい投資スキームとしては、KPIリンク債(ボンド、ローン)やトランジションボンドがある。前者は資金使途こそ一般事業目的とするものの、事前に決められたKPI(重要業績評価指標)を達成したかどうかにより、クーポンが変動する債券(ローン)である。後者は経済活動を維持したままCO2排出量を削減する、炭素集約度の高い事業会社がトランジション(移行)に対するコミットを戦略的に示すために、資金使途がエネルギー転換を可能にする技術やイニシアチブに紐付いた債券である。昨日より今日、今日より明日。非グリーンセクターに属している場合にも、少しずつでも気候変動等に寄与することを可能にする資金調達手法と言える。全体的な底上げが期待できよう。

一層の拡大に必要なこと

最後に、サステナブルファイナンス市場の一層の発展のために必要なものを3点指摘する。

第1に適切な誘導である。規制や税制メリットを適宜設定する必要がある。保有資産のうちどの程度をESG資産として持つべきかを規制として決めれば、市場は拡大するだろう。また、グリーンボンド投資に税制のメリットが得られるとしたら、投資の裾野は広がるだろう。例えば、高齢者が投資して保有していたグリーンボンドを子や孫に譲渡しても相続税がかからない、などのメリットを付与するのはどうか。それを地方債グリーンボンドでやれば、地方に資金が継続的に残ることになり、一石二鳥ではなかろうか。また、ESG投資を行わない場合にペナルティを加えるといった規制はどうか。

第2に、ESGスコアをいかに投資の判断材料として使えるようにするか、である。格付け機関が付与する格付け程度まで、ESGスコアを使うことによって、使う側の定石ができてくることが必要である。またこのESGスコアをつける会社についても、指定格付け機関のようなお墨付きが必要かもしれない。

第3に、TCFDに則った開示が流れになりつつあるが、雛形ができてくる必要があるのではないか。雛形に則って開示ができれば、企業側の手間も多少は省ける。投資家側から見ても比較が簡単になる。

世界中でカーボンニュートラルを達成するという壮大な目標のためには、資金が必要である。そのためにも、サステナブルファイナンス市場の拡大が急務だ。サステナブルファイナンスは、事業会社に対するディスクロージャーの要請、投資家に対する投資妙味の表れ、国の積極的関与などによって、資金の流れが様変わりする可能性が出てきているのは見てきた通りだ。その意味では、日本国債のグリーンボンド発行や日銀のグリーンボンドガイドラインに則した投資スタンスの発表なども必要になるのではないか。また、中小企業や地方のESGに関する技術を持つ優良銘柄の発掘や、そうした先を集めたファンドを創設して世界から資金を集める工夫も求められよう。

ポストコロナがいつから始まるのかさえ判然としない現状である。その経済復興を描くのも当然難しい。コロナ禍を経て構造変化がもたらされた以上、10年後の状況を正確に予想することなど無理であろう。

だからこそ、サステナブルファイナンス市場を後戻りさせてはいけない。世界が2050年にカーボンニュートラルを達成するには現状では程遠く、山積みの問題を解決せねばならない。そのためにも金融市場の変化と後押しは必要不可欠なのである。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

カテゴリ
三田評論のコーナー

本誌を購入する

関連コンテンツ

最新記事