【演説館】
渡辺 靖 :"人種差別問題" に揺れるアメリカ──「 白人ナショナリズム」を読み解く
2020/08/11
「白人ナショナリズム」から見えるもの
言うまでもなく、拙著は白人ナショナリズムを礼賛するものではない。しかし、頭ごなしに全否定することも企図していない。まずは彼らの世界観を内側から「理解」することに力点を置いており、早計な価値判断や論評は控えたつもりである。
その一方で、2年前にロイターなどが行った共同世論調査によると、「現在、米国ではマイノリティが攻撃されている」と答えた米国人が57%だったのに対し、「白人が攻撃されている」も43%いた。驚くべきことに「白人ナショナリズムを支持する」も8%いた。米国内のテロの73%は過激な白人ナショナリストによる。
そして、白人ナショナリズムは米国だけの問題ではなく、欧州における極右ポピュリズムや自国第一主義の台頭とも深く結びついている。白人を中心とした人口構成や社会秩序がグローバル化によって大きな再編を迫られている点も共通している。アイデンティティや価値をめぐる政治はより先鋭化し、重みを増している。
拙著は白人ナショナリストへのフィールドワークをもとに、資料等で肉付けする手法を用いている。「怖くなかったですか」と学生たちから心配されるが、白人ナショナリストの多くは親日派であり、知的で紳士的な者も少なくなかった。彼らを一方的に否定し、自らを道義的な高みに置く語りはあまりに不誠実に思えた。
白人ナショナリストの1人からこう問われた。「もし日本に外国人が数百万単位で入ってきたら、日本人は違和感を覚えませんか? それに異議を唱えたとき、『日本人至上主義者』や『人種差別主義者』とレッテルを貼られたらどう思いますか?」。
皆さんはどう答えるだろうか。
彼らへのヒアリングを重ねながら、そして拙著を執筆しながら、私はつねに自分自身、そして日本社会のことを考えていた。
他者理解とは自己理解であり、他者の中に自己を見出すこと、自己の中に他者を見出すことに他ならない。
拙著がそうした内なる対話の契機になれば幸いである。
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。
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