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【演説館】
小島道一:廃プラスチックとアジア

2019/12/16

廃プラスチックの貿易

海洋プラスチック問題への関心がかなり高まってきた2017年、それまで世界で貿易されている廃プラスチックの半分以上を輸入してきた中国が、廃プラスチックの輸入を禁止する方針を発表した。2017年末には、家庭などで使用された廃プラスチックの輸入を禁止し、2018年末には、工場発生の廃プラスチックの輸入も禁止した。

それまで中国は、廃プラスチックを輸入し、おもちゃなどのプラスチック製品や繊維製品などを製造し、世界に輸出してきた。しかし、汚れた廃プラスチックが輸出されてきたり、プラスチックのリサイクル過程で環境汚染が引き起こされたりしてきた(小島道一『リサイクルと世界経済』2018年)。

中国という最大の輸出先を失った廃プラスチックは、東南アジアや東欧諸国に輸出されるようになった。しかし、東欧諸国では、廃プラスチックが不適切に処分されていると指摘され、東南アジアでは、リサイクルの過程での汚染、残渣の不適切な処理などが、2018年4月前後から明らかになった。その結果、輸入規制を強化する措置がひろがった。2019年はじめには、東南アジア諸国の廃プラスチックの輸入量は、中国の輸入規制強化前の水準と同程度のレベルへと減少している。2018年の世界全体の廃プラスチックの貿易量は、2016年の6割程度にまで落ち込んだ。

環境省が発表した「外国政府による廃棄物の輸入規制等に係る影響等に関する調査結果について」(2019年)によれば、日本では、不法投棄は報告されていないものの、輸出の減少により、一部地域で保管量が上限を超えている保管基準違反が増加していると報告されている。

ただし、輸入を禁止した中国は、洗浄済みのフレークや廃プラスチックから製造された再生ペレット(射出成型や押出し成型などに使用できる原料)については、一定の品質を満たしていれば、廃プラスチックとみなさず、輸入を認めるようになっている。

中国の輸入規制強化後、東南アジアに輸出されていた廃プラスチックの中には、さまざまな廃プラスチックが混ざっているものがあり、東南アジア諸国でより分けられ、ペレットなどの形で中国に輸出される一方、残渣が不適切に処理されてきた。

中国の輸入規制強化以降、輸出国側で、廃プラスチックの種類ごとの選別やフレーク、再生ペレットの製造などへの投資も少しずつ進んできている。しかし、廃プラスチックを収集している業者の中には、中国の輸入規制が緩和されるのではないかと考え、選別、フレークや再生ペレット製造のための投資を控えてきたところもある。

これまでにも、中国政府が規制を強化しても、その執行が厳しくなかったりしたことで、輸出が続いてきた。そのため、今回も短期間で規制が緩和されると信じている業者が少なくなかった。規制が緩和される可能性があるという不確実性が、公害防止のための設備を含め、適切にプラスチックをリサイクルするための投資を差し控えさせてきたと言える。

しかし、今回の輸入規制は、中国政府のトップレベルで決断されたとみなされており、輸入規制を緩和することは考えにくい。また、2019年5月に、有害廃棄物の越境移動を規制するバーゼル条約の附属書が改定され、汚れたプラスチックなどの貿易規制が輸出国側でも強くなる予定である(小島道一「廃プラスチックの貿易規制と資源循環」『環境経済・政策研究』第12巻2号、2019年)。

今後、数年のうちに、貿易規制強化が緩和される可能性は低く、輸出国の中で、さまざまなプラスチックの選別やフレーク化、ペレット製造などへの投資を進めるべきと考えられる。

おわりに

プラスチックは、紙や木材などの森林資源、木綿などの繊維、金属、ガラスなどさまざまな資源を代替する形で利用されてきた。プラスチックから、もともと利用されていた素材に代替することが可能な製品も少なくない。その一方で、代替素材が限られている場合も少なくない。また、代替素材の利用で、環境問題が引き起こされる可能性もある。生分解性のプラスチックへの代替を図る動きもあるが、どのような自然環境でも分解するプラスチックはまだない。

風船を空に飛ばすイベントで使われるひもなど、環境中にまき散らすことを前提としたプラスチックの利用をできるだけ抑制するとともに、アジアの発展途上国では、廃棄物の収集や適正処分、リサイクルの推進を進めることが必要である。日本では、スーパーの店頭で、発泡スチロール製や水産市場で発生する発泡スチロールの箱がリサイクルされているが、多くの東南地域では、発泡スチロールの回収・リサイクルが行われていない。リサイクルに関する取り組みもさらに進める必要がある。

また、先進国も含め、環境負荷が大きくかからない形での代替素材の利用を進めていくことが重要である。また、さまざまな条件で分解される生分解性プラスチックの開発などが望まれる。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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