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小島道一:廃プラスチックとアジア

2019/12/16

  • 小島 道一(こじま みちかず)

    東アジア・ASEAN経済研究センター シニア・エコノミスト・塾員

国内外でプラスチックに関連した2つの問題に関心が高まっている。海洋プラスチックの問題と中国の廃プラスチックの輸入規制に伴う問題である。どちらの問題も、経済発展の進むアジア諸国が議論の焦点となっている。

海洋プラスチック問題

海洋プラスチックについては、1950年代には研究が始まっており、その生態系などへの影響が懸念されてきた。近年、海洋プラスチックが新たな地球環境への脅威になっていると認識されるようになってきた。

2011年には、生物多様性条約、気候変動枠組条約などの地球環境問題に対応するための資金メカニズムとして設立された地球環境ファシリティ(GEF)の科学技術諮問パネル(Science and Technical Advisory Panel)が『Marine Debris as a Global Environmental Problem(地球環境問題としての海ごみ)』という報告書をまとめている。その中では、海洋プラスチックによる生態系への影響が顕在化しており、また、保護区を設置するといったこれまでの自然保護のアプローチが有効でなく、新たな対応が必要であることが指摘されている。

この報告書は、2012年の第11回生物多様性条約締約国会議に提出され、海ごみによる、海および沿岸の生物多様性への影響に関する情報を収集することが同会議で決議された。

海洋プラスチックの80パーセントは陸上で発生したものが河川などの流れを通して、海に流れ着いていると考えられている。国別で見ると、中国、インドネシア、フィリピン、ベトナムなど、アジアの発展途上国が海洋プラスチックを発生させているとの推計がなされている(J. R. Jambeck, et al. “Plastic Waste Inputs from Land into the Ocean,”Science, Vol.347, No.6223, 2015)。

これは、海岸から50キロメートル以内に住んでいる人口、1人当たりの廃棄物発生量、収集されていなかったり不適正に処理されていたりする廃棄物の割合、廃棄物中のプラスチックの割合などをもとに、各国から廃プラスチックの海洋への流出量を推計している。多くの仮定に基づいた推計ではあるが、所得が上昇しプラスチックの使用量が増え、その一方で、廃棄物の収集や適正処分が進んでいないアジアの発展途上国での対策を強化する必要性が明らかとなった(写真)。

中国は、海ごみに関する総合的な対策を打ち出しているわけではないが、海洋環境に廃棄物が流出しないように、廃棄物の管理を強化してきている。また、2007年から、50以上のエリアで、海ごみ、マイクロ・プラスチックのモニタリングを行っている。また、1990年代から、発泡スチロール製の弁当箱、レジ袋などの散乱が、「白色汚染」と呼ばれ問題となってきた。一部の都市でその使用が禁止されたり、汽車や船上でのプラスチック容器の提供が禁止されたりしている。

インドネシアは、関係省庁の取り組みを調整するため、2018年に大統領令で、海事調整大臣を委員長とした海ごみに関する委員会を設置した。また、同大統領令では、59の対策、その担当省庁などを記載したアクション・プランも添付されている。意識啓発、生分解性プラスチックの利用、廃プラスチックのリサイクルなど、取り組みの内容は広範囲に及んでいる。

タイは、国家環境会議にプラスチック廃棄物管理に関する分科会を設置し、ロードマップをまとめた。2019年4月に内閣の承認を受けている。そこには、ペットボトルのキャップにかぶせるキャップ・シールや化粧品などに使われているマイクロビーズの使用を2019年中に禁止すること、2022年までに36マイクロン以下のプラスチック製の袋や発泡スチロールの容器などの使用を禁止すること、2027年までに100パーセント廃プラスチックを利用することなどが盛り込まれている。

マレーシアは、エネルギー・科学・技術・環境・気候変動省が、2018年9月に、「Malaysia’s Roadmap Towards Zero Single Use Plastics 2018–2030」を発表した。レジ袋に関する課金を州単位ではじめ、 2030年までに、さまざまな使い捨てプラスチックを使用しないことを目標にしている。このロードマップは、10月には内閣で承認された。

東南アジア諸国連合(ASEAN)でも、2017年11月には、海洋ごみに関する会議が開催され、今後の取り組みの方向性について議論された。ASEANの海洋環境に関するワーキンググループなどでの議論をもとに行動枠組がまとめられ、2019年6月のASEANサミットでは、海ごみ対策に関するバンコク宣言が採択されている。他のASEAN諸国でも対策が徐々に実施されていくと考えられる。

海面に浮かぶプラスチックごみ(2019年8月、 インドネシア・ジャカルタの漁港にて筆者撮影)。
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