【Researcher's Eye】
村上 健一:災害医療とは
2024/06/14

災害医療という言葉をご存じでしょうか。日本救急医学会のホームページでは、“需要が供給を上回る状態で行う医療”と記されています。具体的には、災害では平時より多くの方が医療機関を受診されます(需要の増加)。その一方で医療機関自体が被災しているため、平時より診療機能が低下しています(供給の低下)。その中で、どのように医療を提供していくかということです。
私は石川県金沢市に隣接する白山市の病院で、脳神経外科医として働いていますが、災害急性期に活動するDMAT(Disaster Medical Assistance Team)隊員でもあります。2024年1月1日、最大震度7の能登半島地震が発生しました。このため、1月1日から3月中旬まで石川県庁内に設置されたDMAT本部で、実際の災害医療に従事しました。
今回のDMATの任務は、能登地方の医療機関・福祉施設の被災状況を確認し、必要な支援を行うことでした。ただ実際には建物と上下水道の被害が甚大でしたので、まず多くの医療機関・福祉施設の入院患者・入所者に、加賀地方あるいは他県へ避難していただきました。その後、医療機関・福祉施設を維持するための支援を行いました。慶應義塾大学病院を始め全国から参集したDMAT隊には、能登地方で現地のDMAT隊として活動していただきました(『三田評論』3月号をご覧ください)。
一方、石川県庁内のDMAT本部では、現地のDMAT隊から寄せられる情報を分析し、まず避難者数を算出し、受け入れ先と移動手段を確保して、実際に避難していただきました。その後は、医療機関・福祉施設を維持するために必要な物資(水、食事、燃料、医薬品)、サービス(入浴、洗濯)、人(医師、看護師、介護士)を調達しました。相談先は平時と異なり、石川県、厚生労働省、自衛隊、業界団体、NPOなど多岐にわたりました。
今回実際に働いて理解したのは、災害医療とは“災害時に医療を提供するために、平時とは異なる新たな医療システムを作り上げる”ということです。
いつどこで災害が発生してもおかしくない現在の日本において、より多くの方に災害医療について知っていただく必要があると考えています。
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。
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村上 健一(むらかみ けんいち)
公立松任石川中央病院脳神経外科部長・塾員
専門分野/脳神経外科、救急科