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【義塾を訪れた外国人】
チャールズ英国王(チャールズ3世):義塾を訪れた外国人

2023/05/02

当日を迎える──あっという間の45分間

そして10月28日、ご訪問当日を迎えた。当日の来訪時間は記録では45分間。まず、パトカーと白バイが先導し図書館旧館前の広場に到着。安西祐一郎塾長(当時)夫妻、当日集まることができた常任理事全員、塾監局長や主要な事務部門責任者が出迎えた。事前の情報漏洩を防ぐために、当時すでに使われていたHPやSNSを一切使わず、当日朝、三田キャンパスに敢えて突然掲示を出した(上掲)。案内を見て集まった塾生や教職員たちがお2人の来訪を歓迎した。

その中には、偶然、中等部に日本研修として来日していた英国のHockerill Anglo-European Collegeの引率教員と生徒たちもまじっていた。多数の日本人の中で英国人らしい小さいグループをみつけた殿下から、直接声がけがあった。義塾では、大学に加え一貫教育校でも英国との交流があることを示す良い機会であった。

一行は、安西塾長夫妻の案内により最初に東館に向かい、6階の現在のG-labで、稲蔭正彦メディアデザイン研究科委員長より、KMD(メディアデザイン研究科)と当時最先端だった4K映像技術のデモの説明があり、アートデザイン関連プロジェクトで制作したオブジェなどを、研究科所属の留学生とともにお見せした。

その後、一行は、図書館旧館に移った。旧館入口付近には、福澤研究センターのご厚意で、福澤諭吉の渡英時に関する展示物がさりげなく置かれていた。そちらを見つつ、一行は2階のホール(現在、福澤諭吉記念慶應義塾史展示館の場所)に入る。そこでは、歌舞伎研究会が指導者の歌舞伎俳優と相談し、この日のために準備したオリジナルの新演目「慶吉日対面(よろこびてきちにちたいめん)」を披露した。

当日、皇太子夫妻に演目内容を英語で説明をする人物がすぐ後ろに張りついており、あれはいったい誰なんだと警備関係者が一瞬慌てる場面もあった。しかし、実はその人物は事前に登録されていたのだが警備に伝わっていなかっただけであった。その通訳の英語での説明をお2人がとても楽しそうに聞き入っており、それを妨げることはできず、その場はやり過ごした。

その後、お2人は剣道部の塾生2人の演武を非常に興味深く見学され、2人の塾生に声をかけ、ご自身で塾生の竹刀を手に取ってみるなど和やかに談笑された。この短い交流後、皇太子夫妻は車で慶應を後にした。

この場に関わることができた当時の塾生たちが、どのようにこの場面を覚えているのか聞いてみたいと常々思っていたが、そういう機会がないまま月日が経ってしまった。今でも、英国大使館がどうして殿下の来日時に、慶應義塾を来訪先に選定したのかは謎である。

その後も、教育だけではなく英国との関係は様々な形で続いている。コロナ禍で想定どおりにはできなかったが、2020東京オリンピック・パラリンピック競技大会の時、英国オリンピックおよびパラリンピック委員会が事前キャンプの一部を日吉キャンパスで行うことになったのは記憶に新しい。

こういったその後の英国との関係にも、過去の義塾と英国の関係、殿下来訪時の義塾のおもてなしが間接的につながっているのではないかと私は思っている。

図書館旧館で剣道の演武をご覧になるチャールズ皇太子夫妻(当時)
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。
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