【特集:物流危機を考える】
古谷知之:ドローン物流の現状と今後の展望
2023/12/05
3 ドローン物流の課題
これまで見たように、近年では陸海空でドローンによる物流が展開されている。ドローン開発の費用が廉価で市場参入しやすいという点で、空を飛ぶドローンによる物流の社会実装が、陸や海と比較して進度が早いようだ。しかし筆者としては、空と陸のドローン物流については、今後淘汰が進み、商業利用という点では海のドローン物流が一歩先に行くのではないかと考えている。今後ドローン物流を商業利用していくために、さまざまな課題がある*2が、そのおもな点を以下に整理しておく。
(1)社会受容性
ドローンは物流における無人化・省人化・効率化・低環境負荷化という観点から利点が認められるにもかかわらず、社会実装に時間を要する一因は1つに、社会受容性にある。とくに空を飛ぶドローンや陸上の自動走行車両は、墜落や衝突による事故を生じさせる危険がある。
米国でも自動運転タクシーの事故が頻発しているが、ときに致死性の事故を生じさせるような危険な車両や機体の運用自体が受け入れられないことがある。空を飛ぶドローンの場合、荷物を運んでもらう着地側の住民には利便性があるものの、発地側の住民にとっては騒音の発生源としか捉えられない場合がある。このような社会受容性をクリアして初めて、社会実装が可能となるのだ。日本人の「ゼロリスク信仰」も、ドローンを始めとする先端技術の社会実装を難しくしている一因だ。
(2)運用コスト
ドローン物流の運用には、安全運行管理のために多大なコストを要する場合がある。ドローンはしばしば「無人機」と言われるが、操縦者が搭乗しないという意味で無人なのであって、安全運行管理のために一定数の人員を割く必要がある。日本では空を飛ぶドローンを操縦するために免許を必要とするため、運用には有資格者を複数名用意する必要がある。
UAVを使ったドローン物流の社会実験を行う場合、数名から十数名程度が安全運行管理を行うため、社会実験費全体が人件費で圧迫されることが少なくない。有資格者の人員確保には、ドローンスクールの協力が必要となるため、ドローンスクールの意向が強く反映されがちだ。「無人化」や「自律化」への抵抗は強く、もはやドローンスクールのビジネスを維持するための社会実験と言われても仕方がないほどだ。こうした状況が改善できなければ、日本でのドローン物流が普及するとは考えにくい。
(3)機体開発
ドローン物流に活用される機体はさまざまだ。空を飛ぶドローンでは回転翼機と固定翼機およびVTOL機(固定翼機と回転翼機を組み合わせた機体)が使われる。陸上輸送に使われる車両には、自動運転トラックのほか、配送用パレット、宅配ロボットなどがある。海上輸送には無人運航船が活用されている。それぞれ、運送距離やペイロードに応じて開発されている。
ベンチャー企業や大企業含め、さまざまな企業が機体開発に関わっているが、ペイロードの大きい物流用回転翼機の開発は、必ずしも容易には進まないのではないかと考えられる。エンジニアの絶対数が不足しており、各機体の開発においてエンジニアの奪い合いとなっているほか、資金獲得難による給与未払いや企業間の給与格差の拡大などにより、機体開発がなかなか順調に進まないということもあるようだ。
ここで挙げた課題がすべてではないが、こうした課題を克服できて初めて、ドローン物流が社会実験段階から社会実装段階へと移行することができるのだろう。
4 ドローン物流の社会実装に向けて
ドローン物流は現在指摘されている物流分野の諸課題を解決するために、有益な手段である。今後は、陸海空のドローン物流の技術が出揃った段階で、地域社会にふさわしいドローンの最適な組み合わせについての議論が進められることだろう。
ドローン物流を社会実装するための諸課題に立ち向かい、ロボットと生活を共にする社会を構築することで、2024年問題を乗り越えられるだろうか。
漫画「ドラえもん」の世界では、エア・チューブやロボット、自動運転トラックなどによる物流技術が描かれている。ドラえもんが生まれる22世紀まであと77年(誕生日までは89年だが)。「未来」はもう私たちの目の前に来ている。
〈参考文献〉
*1 日刊工業新聞「発進 無人運航船(上)海運・造船変革の時 オールジャパンで挑む」、2023年7月26日
*2 国土交通省(2023)「ドローンを活用した荷物等配送に関するガイドラインVer.4.0【本文】」 https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/content/001601194.pdf
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。
2023年12月号
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