【時の話題:ポイントとどう付き合うか】
岡田 祐子:「ポイント」がつなぐ、新しい企業と顧客の関係 ──エンゲージメント時代のポイント戦略
2026/02/26
新卒で大日本印刷に入社後、ポイントカードの販促企画に携わった際、どの企業も横並びで似たような制度ばかりであることに憤りを感じました。同時に、ひとりの生活者としても「次回以降しか使えないのに、なぜ人はポイントで動くのか?」という問いを持ち、約25年前、日本初のポイントサービス専門コンサルティング会社を立ち上げました。
その実務と研究の集大成として昨年刊行したのが『ポイントサービス3.0──エンゲージメント時代のポイント戦略』(中央経済社)です。かつて「お得の象徴」として認知されていたポイントは、いまやマーケティングの世界で注目される「エンゲージメント」──企業と顧客のつながりや共感を築くための戦略資産へと進化しています。
この進化を、3つのステージで整理しました(図1)。
3.0の特徴は、購買以外の行動──シェア、レビュー、参加等──を評価・可視化し、企業と生活者の関係をより豊かにする点です。ポイントはもはや「値引き」ではなく「動機づけ」として、共感や信頼を育てる手段になりつつあります。
企業にとってのメリットは主に2つあります。
1つは、「継続的接点の創出」です。プロスペクト理論やメンタルアカウンティング(へそくり理論)など行動経済学の知見を活かすことで、ポイントが"また来たい"という自然な動機を生み出します。すぐに使うのではなく、貯めて使うことで心理的満足感が得られ、顧客ロイヤルティの向上にもつながります。
もう1つは、「データ資産としての価値」です。購買や行動の履歴から得られる情報は、DXの基盤となり、パーソナライズされた提案や商品改善、顧客体験の質の向上を可能にします。
ただし、導入目的が曖昧なまま制度を始めてしまえば、単なるコストで終わるリスクもあります。即時値引き型の仕組みでは関係性の構築には至らず、制度疲弊を招くおそれもあるため、注意が必要です。
近年、共通ポイント経済圏だけでなく、大手企業が独自に構築する「自社グループ共通ポイント」への注目も高まっています。たとえばJR東日本は、鉄道、商業施設、ECを横断してJRE POINT に統合し、顧客接点の可視化とLTV(Life Time Value =顧客生涯価値)最大化を推進。単なる販促ではなく、グループ価値の共創を実現しています。
また、味の素は「AJINOMOTO ID」によって、購入証明型のポイントを通じて家庭内での継続購買やレシピ提案を強化。明治も「明治ID」で購入レシートを起点にポイントを蓄積し、健康志向の情報提供とファン育成を図っています。
いずれも、個社ブランドの枠を超えてグループ全体での顧客基盤形成とデータ活用を戦略化する動きであり、ポイントは"関係性"と"循環"の設計装置として、企業経営の中核に据えられているのです。
これからの時代、企業に問われるのは「どう売るか」ではなく、「どう関係を築き続けるか」です。ポイントサービスは、その問いに応える有効な"つながりのデザイン手法"といえるでしょう。
企業理念や社会的価値と結びつけたポイント活用も、エンゲージメント時代の象徴的な潮流です。
私は、ポイントは企業活動にとどまらず、社会課題解決のエンジンにもなり得ると考えています。地域や社会のさまざまな課題に参加した人にポイントを付与し、それをボランティアリーダーの認定権などに交換することで、参加の継続と循環を促進することができます。たとえば、地域の清掃活動でポイントが貯まり、バッジや称号と交換される、精神的価値で共感を可視化する仕組みです。
これにより、信頼と共助に基づくソーシャルキャピタルを拡大し、日本特有のポイント文化を通じて、社会全体のソーシャルキャピタルの底上げにも貢献しうるものと考えています。
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。
2026年2月号
【時の話題:ポイントとどう付き合うか】
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| 三田評論のコーナー |

岡田 祐子(おかだ ゆうこ)
株式会社エムズコミュニケイト代表取締役兼 一般社団法人日本エンゲージメント協会理事・塾員