腎臓と聞くと皆様はどのようなイメージを持たれるでしょうか。私たちは日々の生命活動に伴って多くの老廃物を体の中に生み出しています。腎臓はこれらを静かに黙々と処理し尿をつくることで排泄している臓器です。ですから腎臓が悪くなれば、尿をつくって老廃物を体外に排泄できなくなるので困る、ということを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。

しかし、腎臓は尿をつくって老廃物を排泄するだけの臓器ではありません。

実は、健康を支える働きは非常に多岐にわたり、全身の色々な臓器と深く連関しながら、全身の恒常性（ホメオスタシス）の維持に大きな力を発揮しています。

1個の腎臓には「糸球体」と呼ばれる200マイクロメートル程度の小さなろ過装置が連なるネフロンという単位が100万個程度集まっており、心臓から送られる血液をろ過し、その中から水分や老廃物を取り除き、最終的に1～2リットルの尿として体外に排泄します。この尿をつくる過程で、同時にナトリウム、カリウムなどの電解質のバランス、酸性・アルカリ性のバランスを調整しています。例えば塩分を摂りすぎた時にはナトリウムを尿へ排出し、逆に不足している時は体内に戻すといったような調節です。

実は腎臓はホルモンも産生しています。例えば「レニン」という高血圧と深く関係するホルモン、「エリスロポエチン」という造血ホルモンなどです。また、腎臓はビタミンDを活性化して骨を丈夫に保つ役割も担っています。腎機能が低下すると貧血になったり、骨の異常が見られやすくなったりするのはこのためです。

近年注目されているのが、腎臓と他の臓器との深いつながりです。腎臓の機能が落ちると、心臓病や脳血管障害、免疫異常などが起こりやすくなりますし、認知機能低下やうつのリスクも高くなる可能性が指摘されています。逆に高血圧、心臓病や糖尿病が原因で腎臓が悪くなることもあります。つまり、腎臓は全身の臓器と連携して体内環境を保っています。

また、最近では加齢と腎臓病の関係性についても注目されています。年齢とともに腎機能はゆるやかに低下しますので、人口の高齢化を背景にして、慢性腎臓病の数は増えています。日本では2000万人、約5人に1人が慢性腎臓病とも言われるようになってきています。

私たちの研究でも、腎臓の老化が、心臓や肝臓、脂肪組織などさまざまな臓器に影響を与える可能性を示唆する結果を得ています。腎臓は"多臓器連関"のハブとして、全身の老化にも深く関わっているのではないかと考えられています。

このようなマルチな活躍をしている腎臓の機能が低下した場合、何が起きるのでしょうか。腎臓は「沈黙の臓器」と言われており、かなり機能が低下するまで症状がまったく出ないことも多いため、早期発見には定期的な健康診断が必要です。生命維持が難しいくらいに腎機能が低下してくると、腎臓の代わりをする「腎代替療法」（血液透析、腹膜透析、腎移植など）が必要になります。

しかし、腎機能が低下すると困るのは腎代替療法が必要になることだけではありません。実は腎機能低下による症状がまだ出ないような段階から、腎機能が低下すると心血管合併症の発症リスクは約3倍にもなり、また腎機能の低下は生命予後にも関係することが示唆されています。このような心血管合併症のリスクや生命予後に対するリスクは、年間の腎機能低下速度にも関連することが報告されており、早く腎機能低下を見つけ、更なる低下を防ぐように治療することが重要です。最近では、腎機能低下速度をゆるやかにする、腎臓を保護する新しい治療薬の選択肢が増えてきています。

このように、腎臓は尿をつくる働きにとどまらず、血圧・電解質・骨や血液・免疫、そして心血管の健康や全身の老化にまで影響する"からだの要"としての働きがあります。定期的な健康診断の受診とともに、高血圧、糖尿病、高尿酸血症、脂質異常症、肥満など、腎機能に影響を及ぼす状態の改善を心掛けていただくことが、腎臓を守ることにつながります。

もしも慢性的に腎機能が低下した場合、元に戻すことは難しいと言われていますが、新しい薬剤の選択肢も増え、できるだけ腎機能の低下を防ぐように私たちも日々診療を行っております。これからますます腎臓病治療が進歩することを願い、私たちもそれを目指して、これからも日々腎臓の診療・研究に向き合っていきたいと思います。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。