【時の話題:変わる日本の土地制度】
沖 達也:所有者不明土地にどう対応するか
2025/07/14

所有者不明土地問題への対策については、所有者不明土地の発生を予防するという観点と、土地の利用を円滑化するという観点から議論され、法改正が行われてきた。
発生予防の観点からは、令和6年4月1日から相続登記が義務化され、令和8年4月1日からは住所や氏名・名称の変更登記についても義務化される。また、利用ニーズのない土地を相続した場合に、一定の要件のもとで国庫に帰属させることができるという相続土地国庫帰属制度も令和5年4月27日から施行されている。
土地利用の円滑化の観点からは、令和3年民法改正により、新たに所有者不明土地建物管理制度が創設され、令和5年4月1日より施行されている。筆者も実際にこの制度を利用し使いやすさを実感したので、所有者不明土地への1つの対応策として、この制度の内容についてご紹介させていただく。
所有者不明土地が問題となる具体的な事例としては、たとえば、公共事業や民間事業で用地取得を進めようとしたところ一部に所有者不明土地があり取得手続が進まない、所有者が行方不明となり管理不全となっている隣の土地建物を購入して自分で管理したい、土地を売却するために隣地と境界確認をしたいが隣地の所有者がわからない等のケースが考えられる。
このような事案において、既存の制度として、不在者財産管理制度(所有者は判明しているが所在不明のケース)または相続財産管理制度(所有者が死亡して相続人がいないケース)の活用が考えられたが、いずれも「利害関係人」でなければ申立てをすることができず、土地購入希望者というだけでは利害関係人に当たるとは限らなかった。また、これらの制度は、問題の土地を含めたその人のすべての財産が管理の対象となり管理人の負担も大きくなるため、100万円近い予納金(管理人の報酬等に充てられる)を申立人が負担しなければならない場合もあり、コスト面での負担も無視できなかった。
これに対して、新たに創設された所有者不明土地建物管理制度(民法264条の2以下)においては、同じく申立人が「利害関係人」である必要があるが、たとえば、大阪地方裁判所が公表しているQ&Aには、「所有者不明土地・建物が適切に管理されないために不利益を被るおそれのある隣接地所有者」、「土地を取得してより適切な管理をしようとする公共事業の実施者」、「購入計画に具体性があり土地建物の利用に利害が認められる民間の購入希望者」などが例示されている。
対象となるのは、「所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない土地(建物)」であり、そもそも所有者が特定できない場合、所有者が行方不明の場合、所有者(登記名義人)が死亡しており相続人がいない場合・相続人が行方不明の場合・相続人全員が相続放棄している場合などが対象となる。申立て前に、登記上の所有名義人の所在や相続人の有無、相続人がいる場合の所在等について十分な調査をしておく必要がある。
また、問題となっている当該所有者不明土地建物の管理に特化した制度であることから、従来の財産管理制度よりも少ないコストでの申立てが可能である。筆者が経験した事案(所有者が死亡し相続人もおらず数年間空き家となっていた戸建住宅について、隣地所有者が購入を希望していた事案)では、予納金は30万円であった。
裁判所が管理人を選任し管理命令が発令されると、当該土地建物の管理処分権は管理人に専属することとなり、管理人は、裁判所の許可を得て、当該土地建物を売却することも可能となる。弁護士や司法書士が管理人に選任されることが多いが、境界確認のために申立てがされたようなケースでは土地家屋調査士が選任されることもある。
筆者が経験した上記の事案では、申立てから約3カ月後に管理命令が発令され弁護士が管理人として選任され、管理命令が発令されてから約6カ月後に売却が完了し、数年間空き家となっていた隣の土地建物を申立人が無事取得することができた。管理人の報酬は売却代金から支出されるため、予約金はほぼ満額返却された。
手続面で特段議論になるようなこともなく、コスト面での負担も軽減されていることから申立人の理解も得られやすく、筆者自身、大変活用しやすい制度であると感じた。
管理人からも、他の不動産や預貯金や債務などあらゆる財産を管理しなければならない他の財産管理制度と比べると圧倒的に負担が軽く使いやすい制度であると感じている、他にも2件同じような管理案件を担当しているが今後ますます制度の利用は増えていくのではないか、とのお話があった。
所有者不明土地建物管理制度は、従来の制度下では、土地の取得を断念せざるを得なかったようなケースにおいても、費用面での負担が軽減された効率的な手続のもとで取得を可能とするものであり、今後も、所有者不明土地が関連する様々な場面での活用が期待される制度である。
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。
2025年7月号
【時の話題:変わる日本の土地制度】
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沖 達也(おき たつや)
弁護士、不動産鑑定士・塾員