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【時の話題:シニアを愉しむ】
保坂 隆:「ひとり老後」を愉しむ力

2025/01/20

  • 保坂 隆(ほさか たかし)

    保坂サイコオンコロジー・クリニック院長・塾員

「ひとり老後」は、「配偶者の死」という、人間にとって最も悲しい出来事から始まります。その後の心理的課題は「グリーフ・ワーク」と呼ばれ、この作業を通して、悲しみを乗り越え新しい環境に再適応していくのです。しかし、外国の研究によれば、配偶者の死から1年以内に残された配偶者が亡くなる危険率は、男性で1.34倍、女性で1.29倍と、配偶者を亡くした後1年間では、残された配偶者の死亡率が高いことがわかっています。だからこそ、「一周忌」はごく近しい人間だけが集まり、お互い顔色が悪くないか、痩せていないかなど、互いの健康を確認し合うような重大な意義があるのではないかと思うのです。

この1年間を乗り越え、いよいよ「ひとり老後」を愉しむ準備段階になりますが、まずは「健康寿命」を伸ばすことが基本条件になります。そのためには、定期的な健康チェックや服薬に加えて、運動ジムに入ったり、早歩き散歩や筋トレを定期的に行うなど運動を取り入れましょう。

次に、ひとり老後で重要なことは、「孤立老後」には絶対にならないことです。「人に迷惑をかけることだけは決してしたくない」という強い決意を持っている方の中には、気づいてみると、まったくの「ひとりぼっち」という方が結構いらっしゃいますが、これを避けるためには新しい友人を作る、つまり「友活」が必要になってきます。まずは近所の人、同じ地区に住んでいる友人を作ってみましょう。自治体のコミュニティーセンターなどで、趣味のグループにいくつか入ってみて、帰り道が同じ方向なら、こちらから話しかけてみると、いきなり新しい友人ができるかもしれません。また、「SNSの始め方講習会」などに出て、SNSに何かを発信したり、写真を掲載したりするのも刺激的ですね。誰か知らない人から反応があり、新しい友人ができるかもしれません。

「友活」の別の方法は、昔の友人関係を掘り起こすことです。50歳代には、昔のクラス会が開かれますが、昔の同級生同士の関係性は一気に深まるもので、意外に近くに住んでいる友人を見つけたら、ひとり老後の「友活」も大成功ですね。

さて老後になると、やっと、たくさんの時間やお金を、自分自身のために使えることになります。だから、これまでやりたくてもできなかったことを、片っ端からやってみましょう。飽きたらやめて、次から次へとどんどん「矢継ぎ早」にやっていく。さらに、「矢継ぎ早」の次は「前倒し」です。もう少し先になったらやりたいと思っていることや計画などはすべて、今ここに「前倒し」してやってしまいましょう。

最後に、私がやってみたい「ひとり老後の愉しみ方」をこっそり教えます。

●時々は家電量販店に行き、新商品を眺め、1つくらいは社員さんから説明を受けてみましょう。頭が活性化します。

●日帰りの旅行をしましょう。早朝に出れば、結構遠くまで行けます。東京から3時間で新青森まで行けるので、丸山遺跡も日帰り旅行の範疇なのです。

●ある時代に焦点を当てて小説や書籍を読み込み、その後、1~2泊の旅をしてみましょう。今、私は小説を通じて飛鳥時代から奈良時代の人間関係の動きを勝手に想像し、まだ行っていないお寺散策を計画しています。

●人にご馳走できる料理を、1品くらいは凝りに凝って作ってみましょう。

●昔の写真をデジタル化するなど整理して、時々は「あの時代」に戻ってみましょう。

●TVで昭和の歌謡番組があったら、大きな声で一緒に歌うのも、かなり脳が活性化されると思います。

●しかし、一日中TVをつけている老人には認知症が多いことがわかっていますので、惰性でTVをつける行動はやめましょう。

●新たに、楽器を学ぶのも楽しいでしょうね。せめて青春時代の大好きな曲だけは、弾き語りしたいですね。

●シニア向けのスマホを使いこなしましょう。遠くの孫や友人とTV電話できるし、新幹線や旅の予約だってできます。検索機能を使って忘れた記憶を取り戻せたり、新しい情報を集めることもできます。翻訳機能があれば、外国旅行も距離感が近くなりますね。

●時々は100円ショップの商品を時間をかけて眺めながら、「自分の生活にどのように役に立つか」と想像力を働かせてみましょう。「衝動買い」も許される場所です。

●近所に1軒くらいは「行きつけの店」を持ちましょう。カフェでも定食屋さんや飲み屋さんでもかまいません。挨拶できる店主やお客さんも増えてくると思います。

●自治体のコミュニケーションセンターなどで、無料か安価のセミナーに出るか、〇〇教室に参加するのもいいですね。オススメは「マインドフルネス瞑想」です。

さあ、一日中ジャズのCDをかけていても、一日中読書していても、誰からも文句は言われません。これからが「自分自身の人生だ!」と前向きに「ひとり老後」を楽しんでください。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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