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【時の話題:北陸のちから】
鷲頭美央:女性が働きやすい社会の実現に向けて~福井県の挑戦~

2024/02/09

  • 鷲頭 美央(わしず みお)

    福井県副知事・塾員

令和6年1月1日に発生しました能登半島地震により、お亡くなりになられた方々に心よりお悔やみを申し上げるとともに、被災した全ての方々にお見舞い申し上げます。被災した皆様の安全と被災地の1日も早い復旧・復興を心よりお祈り申し上げます。

福井県は、共働き世帯の割合が61.2%(令和2年国勢調査。以下、特段の表記がない限り出典同じ)で、全国1位、日本一の共働き社会である。女性の就業率も55.6%で全国2位、女性の正規職員割合は54.6%で全国6位となっており、働く女性がとても多い。他方で、管理職に占める女性の割合を見ると13.5%と、全国でワースト7位であり、多くの女性が働きながらも組織の中では管理的な地位に就いていないことがわかる。また、女性に管理職への昇任意欲を聞く民間の調査によれば、管理職になりたい・推薦されればなりたいと思うという答えが33.3%あったのに対し、なれる可能性があると思うと答えた割合は25%と、意欲よりも低かった。さらに言えば、7割近くの人が、管理職になりたいと思わないと答えており、その最大の理由に、家事・育児・介護の負担が男性に比べて大きいからと答えている。

参考までに、令和3年社会生活基本調査による「家事・育児時間の男女差」を見ると2時間10分であり、全国でも相対的に長い方(短い順に並べて全国30位)であった。また、「ゆとり時間(休養、趣味などに使える時間)の男女差」を見ると、全国で最も差が大きい結果となり、これらのデータから、福井県では家事・育児等の負担が女性に偏っている状況が見える。

こうした状況を支えてきたのは、代々、3世代同居率の高さにある。北陸に共通の傾向があるが、福井県では、3世代同居率が、全国の倍以上となる11.5%であり、また、車で30分以内の近居まで含めると、6割近くの方が同居や近居により、親族の支えを日常的に受けられる状況にあると言われている。このことが働く女性を支え、日本一の共働き社会の底力となっていることは間違いないが、男性の育児参加が進んでこなかった背景にも影響していると考えられる。

私は、令和5年8月に福井県副知事に就任したが、本県で女性が副知事となるのは初めてのことであり、「女性活躍」の推進役として重大な任務をいただいている。しかし就任以来、県内の女性から聞く言葉は、「女性に活躍しろと言われてもこれ以上は無理」「仕事も家庭も忙しい」といったものが多く、女性の就業率が高い本県において、女性が生き生きと、やりたいことに躊躇なく挑戦できるようにするためには、働きやすく、仕事と家庭の両立がしやすい社会にしていくことこそがその本質であると感じるようになった。

仕事も家庭も大変だという現状から、仕事も家庭もプライベートも充実していて楽しい、という実感を持ちながら生きられる環境にすることで、それぞれが意欲をもって様々なことに挑戦し、活躍できる社会の実現につながる。そのためには、両立がしやすくなるための基盤の構築が必要である。

両立の基盤づくりの鍵となるのは、第1に、働きやすい職場であることだ。職場における働き方を改革し、在宅勤務等の柔軟な就業形態を整えていくことや、短時間正規雇用等の多様な雇用形態を増やしていくことを、生産性の向上とともに進めていくことが重要である。企業に対し働き方改革等のインセンティブを強化することや伴走支援を進めたい。

また、職場だけでなく家庭においても、家事育児等の負担が女性に集中する構造を変えていかねばならない。このために、共有化、省力化、外部化など、様々な選択肢を通じて、家事・育児そのものを多様な主体でシェアできる環境を整備していくことが求められる。都市部のような民間の子育てサービスが多くない本県において、これらの選択肢を増やしていくための支援は行政に求められる大きな役割であり、日本一幸福な子育て県「ふく育県」を実現すべく施策の充実を図っている。

そのうえで、各個人が、多様なロールモデルに触れ、自分の中のチャレンジしたい気持ちを醸成し、スキルアップできるような取組みも進めていく。

こうしたことを進めていくには、既存のやり方や風土を変えていくという点で、変革が必要となる。変革するためには、アンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)があることを認識することや、例えば男性の家事育児への参画などを促進する機運を醸成していくことにも粘り強く取り組んでいく。

女性が働きやすい社会は、きっと男性も働きやすい。そうやってすべての人が、家庭やプライベートと仕事とを両立しやすく、男女ともに、生き生きとチャレンジできているさまは、次世代に向けても、ここで、暮らし、働き、子を産み育てていくことのポジティブな展望をもたらすものと考えている。まもなく福井県には北陸新幹線が開業する。開業の先に見える福井県社会が、誰もが働きやすく両立しやすい希望あふれる社会となるよう、職場、家庭、そして地域で、それぞれに取組みを重ね、オール福井で、その実現を目指していきたい。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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