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【時の話題:北陸のちから】
武田幸男:魅力あふれる地、北陸

2024/02/09

  • 武田 幸男(たけだ さちお)

    一般社団法人 北陸SDGs総合研究所 代表理事・塾員

私が代表理事をしている一般社団法人北陸SDGs総合研究所は、北陸大学の地域連携センター長時代に自治体と一緒に行った地方創生活動や国連大学の研究員の方との共同研究から、日本には解決すべき社会課題が多くあると考え、2020年に設立しました。現在、すでに大手企業20社以上と連携してSDGs活動をしています。

SDGsはユネスコが2030年に向けたゴール設定をしていますが、私どもは100年後を視野に入れて、「世界から尊敬される日本」であるためには何が重要かを考えてSDGs活動をしています。活動領域としては、「健康で明るく安心安全な社会づくり」、「日本の自然と歴史文化の保護」、「子供から大人までの教育のレベルアップ」「Well-being経営と経済発展」「食料の自給自足」「自然に優しいエネルギー開発」の6領域に活動分野を集約しています。

1人暮らしの高齢者が増えていますので、「健康で明るく安心安全な社会づくり」をさらに細分化して、高齢者の健康増進、高齢者に優しい交通システムの構築、世代間地域コミュニケーションの推進、防災減災の社会といった4領域に絞っています。

「高齢者の健康増進」について取り組むのは医療そのものだけではなく、生活に必要な交通問題の解決を考えています。特に過疎化が進んだ地域では交通環境が悪く、通院も難しい状況です。これを解決しないと医療の解決になりません。高齢化社会の問題は全国的な課題ですが、過疎化が進んでいる地域の医療と交通の在り方について実際に輪島市に行って調査しました。

バス停は集落から離れた幹線道路に設置されており、500mも離れている住宅もありました。健康な人であれば問題のない距離も、杖をつきながら歩く高齢者にはつらく、荷物を持ちながら雨や雪の中を歩くにはとても不便な環境です。体力的に考えても高齢者に適した交通システムは従来のバスの延長線ではなく、新しいシステムを考えるべきと思いました。

交通は通勤・通学や買い物などの目的達成のための手段ですが、高齢化社会での「交通」は異なる側面があります。それは、高齢化が進むと医療費・介護費用が財政を圧迫しますので、「交通」で外出機会をつくることで健康増進をし、医療費や介護費を抑制するといった目的があるということです。その他にも交通には観光、防災といった目的も持ちます。その点から行政を考えると、交通は交通政策課、健康は健康福祉課といった縦割り行政で連携が難しいことが課題といえます。

一昨年、JR西日本バスが運行廃止・減便した地区で高齢者に便利な交通システムを金沢市と一緒に考えました。同時に、交通システムを活用した外出促進による認知症やフレイル予防などの健康増進との融合も考えました。

ある大学の研究では、2025年に認知症患者数は700万人になると予想され、85歳以上では認知症発生率は40%にもなると推測されています。老々介護が当たり前の社会になっていくと思います。

認知症患者では人格変化が起きることもあると言われており、高齢者の伴侶が愛情をもって介護することは大変なことです。結果として共倒れになってしまう可能性があります。これを避けるために、地域で集団的に介護する環境をつくるのが良いと提案されています。しかし、最も重要なことは認知症の予防です。認知症の予防は容易ではありません。高齢者の社会的交流や外出の機会を増やすことが重要で、外出が容易になる交通システムが大きな役割を果たすと考えます。

北陸SDGs総合研究所では、北陸地方から全国にこの「健康増進×交通システム」の構築を産学官民の連携で進めようとしています。

他方、「世界から尊敬される日本」をつくるには北陸地方の美しい里山里海の自然や豊かな歴史文化の情報を世界に発信することも重要です。これには、国連大学、(公財)日本自然保護協会、さらには地域のまちづくり協議会などとの連携が重要と考え、北陸の魅力発見の活動をしています。

さらに、若者の力の発揮も「世界から尊敬される日本」をつくるには重要です。

不幸にも、2024年元日に能登半島地震が発生しました。復興には長期間かかるため、継続した支援が必要と考えています。私は世界中のスポーツ愛好家に呼びかけて、2018年から金沢城で開催しているアーバンスポーツ大会を今年も実施し、義援金を集めて能登半島の復興を実現したいと考えています。最低でも5年間の継続した支援を企画中です。能登の美しい里山里海と伝統文化を後世に繋いでいくために、皆様からお力添えを頂けると大変有難く思います。

日本経済の発展ではWell-being経営の実践が重要です。これはファイザー勤務時代に取り組んだ経験を活かして産学連携で実施しています。

日本社会の問題解決には行政、大学、企業、地域住民などが一体となって臨むべきと考えています。今後も、北陸から世界に情報発信して「世界から尊敬される日本」をつくることに努めていきたいと考えています。

(1月1日の能登半島地震発生後、被災地にて支援活動を行う著者)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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