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【時の話題:睡眠の力】
木村友彦:ベッドから切り拓く〈睡眠環境の未来〉

2023/12/25

  • 木村 友彦(きむら ともひこ)

    パラマウントベッド株式会社代表取締役社長・塾員

睡眠の概況

睡眠は人生のおおよそ3分の1を占めるとても身近な存在です。「日本人の平均睡眠時間は世界的に見ても短い」とされており、メディアなどでは「睡眠負債」が話題となり、睡眠への関心が高まってきています。

当社が全国の20~60代の男女1,000名を対象として行った睡眠に関する意識調査では、8割以上の人が睡眠の重要性を感じ、睡眠が日中のパフォーマンスに影響があることを実感しているものの、7割以上の人が具体的な睡眠の対策ができていないという結果でした。

睡眠の役割

睡眠には多くの役割がありますが、ここでは2つ紹介します。1つ目は「脳と身体の休息、疲労回復、身体損傷の修復」です。睡眠は、身体と脳を休息させ、蓄積した老廃物を排出したり、疲労を回復すると共に身体の損傷を修復したりします。寝不足の場合、疲れやすく、イライラする、体調を崩しやすく、怪我もしやすくなります。充分な睡眠がとれていれば疲れにくく、精神的にも落ち着き、元気に過ごせます。

次に「記憶の整理と固定」です。睡眠が記憶を整理し固定させる働きを持つなど、学習に大きな役割を果たしていることも分かっています。レム睡眠時に、覚醒中に保持された記憶を整理し、強度の高い記憶として固定していると言われていますが、このレム睡眠は睡眠の後半に多く出現するため、記憶の固定には十分な睡眠時間が必要と考えられます。覚醒中に眠気が残るような状態では、記憶の保持にも悪影響があり、脳を十全に使うことも困難になります。

睡眠改善への挑戦

当社は2009年にパラマウントベッド睡眠研究所を設立し、①睡眠に関する研究および要素技術の開発、②睡眠に関する製品の評価、③睡眠に関する情報の収集・発信を主な活動に、心地よい睡眠を実現すべく、日々真摯に取り組んでいます。研究成果を学術論文や学会講演などでも発表し、科学的な根拠に基づく研究開発を重ねる中で、体に何も装着せずに睡眠状態を計測できるセンサー、寝返りしやすいマットレス、睡眠状態にあわせてベッドの角度を調節する眠りの自動運転などの開発、競泳日本代表やアスリートへの睡眠改善提案を通じたパフォーマンス向上支援を行っております。次世代の育成支援においても、「睡眠の大切さを学ぶ中学生向け教育プログラム」の提供や慶應普通部の特別授業「目路はるか教室」での講義などを行っています。

厚生労働省の調査では、日本人の約5人に1人が睡眠の悩みを抱えているとも言われています。睡眠不足による経済損失は15~18兆円とも言われ、GDP比で約3パーセントという莫大な金額です。睡眠課題を解決することは高齢化が進み生産年齢人口の減少が続く日本の課題解決に大きく貢献すると考えられ、「スリープテック」という言葉も生まれています。

医療・介護の領域では高齢患者や要介護高齢者の増加と生産年齢人口の減少による働き手の不足をカバーするためのテクノロジー活用が期待されており、当社は患者や要介護高齢者と不規則勤務労働者の睡眠改善への貢献も期待できる製品やサービスを普及させている最中です。健康領域では、医療費削減や生産年齢人口の減少を緩やかにする観点などから健康寿命の延伸が期待されていますが、当社の持つスリープテックが健康寿命の延伸に対して貢献できると考えて挑戦しています。

睡眠環境の未来に向けて

当社のActive Sleep BEDは、睡眠状態をセンシングし、入眠時と睡眠中、起床時、それぞれの状態に合わせてベッドの角度を自動で変化させます。例えば入眠時は、約10°背を上げて眠る入眠角度に。フラットな状態の時より、横隔膜が下がって気道が広がるため呼吸がしやすくなり、快適に入眠できることが期待されます。眠りについたことを感知すると、1分に1°程度のゆっくりとした速度でフラットな状態へと変化し寝返りを打ちやすくします。起床時は、背が自動で動き、すっきりとした目覚めを促します。

これからは、疲れたから眠るのではなく、明日の行動の質を高めるために積極的に睡眠をとっていく。そんな新しい睡眠への向き合い方が常識として定着するように、ベッドから広げた睡眠環境もターゲットにする必要があると考えています。

睡眠の質を高めるには、寝室内の温度、湿度、匂い、照明、食事、運動の内容やタイミングまで、あらゆるものを科学的にトータルプロデュースしていくことが求められます。すでに睡眠データを活用した家電との連携も始まっています。睡眠データに応じて睡眠改善アドバイスを提供する睡眠改善プログラムTMをより個人に合わせ、寝室内環境から運動まで幅広くレコメンドしていきたいと考えています。

食事の内容や量、食事に適した時間なども睡眠データとの関連から見いだせる可能性があり、良い食事をとることが良い睡眠につながっていく、そんな睡眠環境の未来にむけて、幼稚舎からの同級生である日清食品の安藤徳隆社長とも議論しています。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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