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【時の話題:野球で地域おこし】
馬郡健:地域に唯一無二の存在として

2023/06/07

  • 馬郡 健(まごおり たけし)

    一般社団法人日本独立リーグ野球機構会長・塾員

2005年4月、筆者が現在代表を務める野球の独立リーグ「四国アイランドリーグ(現四国アイランドリーグplus)」が産声をあげた。以来、「人材育成」「野球界をはじめとするスポーツ界の裾野拡大」「地域の活性化と地域貢献」の3つを柱とし、今年で19年目のシーズンを迎える。これまで1000人以上の選手が巣立ち、トップリーグであるNPB12球団には77名の選手がステップアップした。現役では福岡ソフトバンクホークスで活躍する又吉克樹投手、藤井皓哉投手、千葉ロッテマリーンズの角中勝也選手、阪神タイガース石井大智投手、東北楽天ゴールデンイーグルスの宮森智志投手らも当リーグ出身者だ。さらに特筆すべきは、オリックス・バファローズの茶野篤政選手で、昨秋のNPBドラフトでは育成4位指名ながら、オープン戦から好調を維持し開幕1軍スタメン、以後レギュラーに定着し、今では新人王候補である。昨年は当リーグの徳島インディゴソックスに在籍していたが、シーズン当初は控え選手で、徐々に頭角を表し首位打者となった。オリックス2軍との交流試合で本塁打を放つなど活躍し、現在の道を自ら切り拓いた。

当リーグにはさまざまな経歴をもった選手が全国から集まってくる。出身校に野球部がない、部員が集まらない、家庭の事情で野球が続けられない、野球が諦められないなどその理由はさまざまで、十分とは言えない給与ではあるもののプロ野球選手として地域で受け入れ、監督、コーチ、スタッフのもとで鍛錬し、切磋琢磨しながらNPBスカウトに注目されるよう全力でプレーする。高校野球、大学野球で活躍しスター候補としてNPB入りする選手がいる一方、環境や指導に恵まれず埋もれてしまった人材を発掘し育成する。こういった野球界における人材育成面での貢献が大きな柱の1つだ。

加えて、地域で求められる役割も年々大きくなっている。2005年の国勢調査によれば四国4県の総人口は409万人、最新となる2020年調査では370万人まで減少。四国アイランドリーグが創設されてから10%以上の人口が減少し、加えて少子高齢化で生産人口減少の影響が加わっている。何もしなければ地域の活力は減退していく。四国アイランドリーグplusと加盟球団は地域のスポンサーに支えられながら、毎年100名を超える若い選手を全国各地から四国の地に集め、プロ野球選手として契約。リーグ戦を通じて心身を鍛錬しながら、子ども野球教室、地域のイベントやお祭りへの参加、地域産品のPR活動など地域活性の役割も担う。

NPBにステップアップする選手は全体の5%程度。残り95%はセカンドキャリアの道を選ぶが、中には四国4県にそのまま定住し、地域の貴重な若い人材として活躍する者も多い。今シーズンは愛媛マンダリンパイレーツに元同球団選手を父にもつ2世選手が入団したことも話題となった。

「地域の活性と謳いながら観客数が少ない」というご指摘をよくいただく。当リーグの場合、およそ年間140試合を戦うがコロナ禍前の全試合合計で6万人の観客動員数(今シーズンも6万人程度を見込む)で、NPBと比較すると規模は小さい。しかし逆に言い換えると、四国地域で平均400~500人を集めるイベントを140回実施している団体としては四国では唯一無二の存在である。またNHKや民放、地方新聞でも日々取り上げていただき、地域の活性化の一助は担っていると考えている。

各球団は各県で地域の企業や有力者に支えていただき、県や市町村と連携をしながら経営。球場の運営は、地域のボランティアや学生インターンなどに支えられている。休日の球場はジュニアダンスやチアリーディングチームの発表の場としても活用され、ボールボーイは将来プロ野球選手を目指す少年の登竜門になっている。

一方、試合のない平日には県内の幼稚園、保育園でボールを投げる楽しさを伝える活動(徳島県)や、小学校の登校見守り活動(愛媛県)など地域への還元も積極的に実施している。地域のあらゆるリソースを集約し、リーグ、球団を運営していると言える。厳しいコロナ禍を乗り越え多少の増減はあるものの、基本的にリーグ、球団運営法人いずれも収支は見合っており、創立以来19年の時を経て持続可能な運営形態に進化している。

昨年より、「リーグが創出する社会的価値」と題して定性・定量データを計測し、四国アイランドリーグplusが存在することによって創出される経済的影響、社会的影響について検証を開始した。「地域コミュニティの醸成」がソーシャル・キャピタルの構築やシビックプライドにどのように影響するのか、四国アイランドリーグplusの活動がどう機能しているのか中長期的な変遷をみていく。財務諸表にはない非財務価値を数値化し、新しい価値指標を創出するのが目的である。

現在の課題は、「持続可能な形を維持しながらどうスケールすべきか」だと考えている。人口減少と少子高齢化は止めることはできない。地域と野球というメディアを通じて引き続き50年後の日本の縮図を解決する糸口を探っていきたい。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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