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【時の話題:フェムテックで女性支援】
村上まどか:医療機器規制の観点でみたフェムテック製品と最近の取組み

2022/03/16

  • 村上 まどか (むらかみ まどか)

    厚生労働省医薬・生活衛生局医療機器審査管理課 革新的製品審査調整官・塾員

私がフェムテックという言葉に出会ったのは、現在の部署に配属されたばかりの、日本におけるフェムテック元年とも呼ばれる2020年の秋だった。

同年10月に立ち上げられたフェムテック振興議員連盟の活動を受け、2021年6月に閣議決定された「骨太方針2021」や「女性活躍・男女共同参画の重点方針2021」に「フェムテックの推進」が明記された。現在、フェムテック推進のための活動の一つとして、さまざまなフェムテック製品についての規制上の位置づけや必要な要件の詳細を、産官によるワーキンググループで議論しているところだ。

本邦において医療機器は、品質や有効性、安全性が確保されたものが流通するよう、薬機法*1と呼ばれる法律によって規制されている。では医療機器とは何かというと、「疾病の診断、治療もしくは予防」に使用される、または、「身体の構造もしくは機能に影響を及ぼす」ことが目的とされている機械器具、と定義されている*2。つまり、このような目的性をもって流通させようとする機械器具は、薬機法の規制を受けるということになる。これはフェムテック製品に関しても例外ではない。

女性の身体特有の事象に対して用いたり、女性器に関連したりする製品のうち、突き詰めれば先に述べたような医療機器に該当する目的性を持つものであっても、薬事規制を避けるためにそれを標榜せず、雑貨として売られているものも多い。このような製品、とくに膣内に挿入して使うものに対しては、大人のおもちゃというイメージが付きまとう上に、医療としての目的を表に出せないため、一般の理解も得られにくいという側面があった。今般のフェムテック推進の議論の中で、本来の目的を明確にして消費者に届けることで、フェムテック製品が正しく普及し、真に女性の健康に寄与するのではという指摘があった。その一方で、薬事規制が事業者にとって大きなハードルとなるとの声もあった。

医療機器は「救急絆創膏」や「全人工股関節」、「冠動脈ステント」といった「一般的名称」と呼ばれるカテゴリーにより整理されている。また個々の一般的名称には定義が付されており、どのような製品がそのカテゴリーに該当するかがわかるようになっている。令和3年10月8日時点で医療機器の一般的名称は計4,406も存在するのだが、フェムテック製品を始めとした新規の医療機器が、既存の一般的名称に当てはまらないことが往々にしてある。

そのような場合は、厚生労働省が既存の一般的名称の定義を変更、あるいは一般的名称を新設するなどして対応する。例えば、経血処理用の製品として月経カップが登場した時には、一般的名称「生理用タンポン」の定義に「カップ状の詰め物」を追加することで、このカテゴリーに該当する医療機器として位置づける対応をした。また最近では、フェムテック製品に関連する新規カテゴリーとして、性交後に子宮口にはめて精液の流出を防ぐために用いる「子宮口キャップ」という一般的名称を創設している。

しかし、企業が医療機器規制に不慣れな場合、既存の名称がないので自社の製品が医療機器として認められないのではないか、あるいはとてつもない時間とお金がかかるのではないかと尻込みしてしまうことがある。同じように規制当局側も、これまで見たことのない目的性の医療機器について、どのような観点で定義したり評価したりすればよいのかに悩む。これを解決していくには、お互いが規制や製品について理解を深めて共通言語を持つことが近道であり、現在ははじめに紹介した産官ワーキンググループでこれを実践している。

「規制」という言葉には障壁のようなイメージがあるかも知れない。フェムテック推進の議論の中で、薬事規制がフェムテック製品普及の足かせとなるという意見も多くあった。たしかに、さまざまな規制要件への対応など、難しい面はあるだろう。一方で、規制するということは、国も当事者の輪に加わることを意味する。品質や有効性、安全性確保のために必要な要件を国が定め、その要件をクリアした製品を企業が流通させ、使用者の信頼を得ていくことは、医療機器としての目的を持つフェムテック製品の健全な普及を後押しするのではないだろうか。

この時に我々規制当局に求められるのは、製品を理解した上で無駄のない効果的な要件を設定する力量であると、肝に銘じている。

フェムテックの普及が一つのきっかけとなって、男女問わず自分の身体を理解し大事にすることの大切さが再認識され、さらに家族や周りの体調の変化に理解と思いやりのある世界になって欲しい。そのために、医療機器規制という一つのツールを通じて少しでも役に立てたら本望である。

〈注〉

*1 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律

*2 正確な文言は薬機法第2条第四項を参照

(追記 本稿は個人の見解であり所属を代表するものではありません)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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