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【時の話題:フェムテックで女性支援】
工藤里紗:「生理CAMP」を通して考えた女性支援

2022/03/16

  • 工藤 里紗(くどう りさ)

    テレビ東京プロデューサー・塾員

オリンピックが開催されるはずだった2020年8月の終わり、深夜2時に《生理CAMP2020》という、生理のみを扱う番組を企画し放送した。

学校の性教育に代表されるように、閉じられた空間でのみ話されてきた「生理」がまるでキャンプのようなオープンな空間で気軽に語られる深夜の30分番組。遅い時間にもかかわらず、放送が始まると深夜から朝まで、多くの人がSNSで“生理語り”をするという現象が起き、なんと「生理CAMP」がツイッターでトレンド入り。そこから、配信イベントの開催、年末には出版社から書籍化のオファーを受け、昨年はタレント、アスリート、外国に住む方、LGBTQ+の方、医療従事者、一般の方の語られてこなかった声を集めた『生理CAMP──みんなで聞く・知る・語る』という本を出版するなど、テレビを飛び出し「生理」を発信する機会がどんどん広がった。

この1、2年は他局でも生理の話題を目にするようになり、「生理の貧困」のニュースなども目にするようになった。昨年はとくに「フェムテック」が流行語大賞にノミネート。GU、ユニクロの「吸水サニタリーショーツ」発売のニュースがあり、まさに市民権を得たイメージがある。

《生理CAMP》を企画したきっかけは「初潮」からかもしれない。私は小3で初潮を迎えて、学年で一番早く生理に。そのことについて話せる友だちもおらず、プールの時間はなぜか一人だけ見学で、一人成長が早いことに孤独感を募らせていた。しかし、ある時から生理の仲間が徐々に増え、謎の連帯感が生まれ、立場は違っても生理にまつわる悩みや好奇心について話し合うとつながれることを知った。

その後、テレビ東京に入社。そこで初めて自分で通した企画《極嬢ヂカラ》(女性向けの深夜番組)で反響が大きかったのが生理特集だった。月日が経ち「#MeToo」運動が世界で広がり、「フェムテック」というワードを目にし、衝撃を受けた。

フェムテック自体は2013年にドイツの女性起業家が事業への出資を募るためにつくったビジネスカテゴリー。女性特有の課題をテクノロジーで解決しようというワーディングセンスによって性別を問わず受け入れられ、世界中に広がっていた。そして、生理にまつわる独自の文化や経済状況から生理用品の入手に苦しんでいたインドの女性たちを救うために立ち上がった男性起業家の映画『パッドマン』に感動。今だからこそ生理を描きたい! テレビだからこそできることがあるのでは? と、生理の特番企画を書き始めた。

社内では「生理のことをテレビで見たい人はいない!」という指摘も受けつつ、それでも「生理の番組が作りたい」と言い続け、チャンスをつかんだ。そして、番組、配信、書籍などで「生理CAMP」が広がっていった。

とはいえ、自分の関心は限定的なもので、視聴者の多くも生理感度の高い人に限られるだろうと思っていた。しかし、放送後に目にしたのは「タンポンを人生で初めて見ました!」「気軽に婦人科を受診していいんですね」「痛み止めを飲んでも大丈夫との稲葉可奈子先生の言葉に勇気をもらいました」という声の数々。じつは生理情報感度の高い人たちは少数派で、むしろ、ふわ~っと見にきてくれた視聴者のほうが、ずっと多かった。そして、そのような人たちにリーチができる。それこそが、エンターテインメント、とくにテレビの強みなのだと痛感した。同時に、いかに自分が“自分の見たい情報”しか見えなくなる=「フィルターバブル」の中にいるのかも思い知った。

社会の問題の多くは、問題や悩みその中のものを口に出せないところにある。昨今さまざまな意見もあるが、テレビには「バカでかい声」がある。美声かはわからないが、大きな声があるからこそ、声を出しにくい人のために使えば何かが変わるかもしれない。知らないと、そこに問題があることも知られない。誰かが勇気を出して、声を出し、声を出すことで知ることが広がる、知るからこそマインドが変わっていき、議論が生まれる。

大きな声があるほかに、マスメディアやエンターテインメントには「知ること」で「共通言語を生み出す力」がある。一個人が、人生で体験できることは、たかが知れている。実際の体験はできないが、何かを見たり聞いたりすることで「想像力を育む」ことはできる。

話しやすい「空気感」が生まれ、新しい価値観が当たり前になっていくこともある。今、生きづらい人がほんの少し生きやすい社会にできるかもしれない。

私は医者でも発明家でも起業家でもない。大きな改革や悩みが消える商品を生み出すこともできない。

しかし、人よりちょっと大きな声を出せるマスメディアという場にいる者として、勇気を出して声を出しづらい人の声に耳を傾け、知る機会を増やしていきたい。いつか「生理」の話題をテレビですることが当たり前になり、「フェムテック」が流行語にならず、どのセクシャリティの人も、自分が抱える悩みについて普通に知ることができ、話し、その問題解決に取り組むことが当たり前になる日を目指して。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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