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【時の話題:これからのツーリズム】
サイクルツーリズムの魅力と可能性

2020/12/18

  • 山本 徹也(やまもと てつや)

    株式会社ライドエクスペリエンス代表取締役・塾員

コロナ禍の下、自転車、それもスポーティーで長い距離でも疲れにくい、「スポーツバイク」が売れに売れているという。感染リスクが低く、健康維持にも環境にも良い自転車が、今、全世界で改めて注目を集めているのだ。

私たちが取り組んでいる「サイクルツーリズム」も、主にこのスポーツバイクを使う。それは、「自転車を旅(=非日常)の移動手段として地域をめぐりながら、サイクリング自体を楽しむことを主要な目的とする旅のスタイル」と定義づけることができよう。

その魅力、特徴を挙げてみると……①四季折々の自然の匂い・音・風や光などを生身で(五感で)感じ、②車では気がつかないような何気ない地域の風景に感動し、③徒歩よりも格段に広い範囲を移動(旅)することができながら、④いつでも立ち止まって景色を眺めたり写真を撮ったりすることができ、⑤適度な運動が健康維持やストレス発散に効果的で、⑥お腹がすくので食事も美味しくなる上に、⑦二酸化炭素を排出せず地球や地域の環境に優しい。……と良いことずくめである。

さらに、ガイド付きサイクリングツアーなら、訪れる地域をより詳しく知ることができ、地元の人々との出会いや、その地ならではの自然や食の体験を楽しむ機会を得たり、何よりも安全性や安心感が増すといった点で、旅の満足度はより高くなるであろう。

また、地域への経済効果の観点から見ると、サイクルツーリズムでは、(i)車よりも移動に時間がかかるため、各地域での滞在時間が長くなり、宿泊や食事の機会も多くなること、(ii)参加者の特徴として、大手チェーン店よりも小規模なローカル店を好む傾向が強いこと、(iii)マーケットの年齢層は中高年層が中心で、可処分所得が高い人が多いことなどから、訪れる地域における消費額が大きくなることが期待されている。実際、欧米における調査では、一地域における旅行中の消費額は、サイクルツーリズムの旅行者の方が、車や電車による旅行者よりも高かったという報告が相次いでいるのだ。

だからこそ、近年、日本各地の自治体で「サイクルツーリズム促進」の掛け声が多く聞かれるようになり、国もそれを後押ししているのである。

弊社では、このサイクルツーリズムを、(A)ツアーに参加する初心者層、(B)ツアーに参加する経験者層、(C)自ら企画実行する経験者層、という3つの市場に分類し、各々に対して特徴あるサービスを提供している。

Aの市場向けには、弊社が拠点とする栃木県の那須を中心に、旅なかの半日程度で体験できるアクティビティとしてのサイクリングツアーを提供している。例えば、極太タイヤのファットバイクで未舗装の林道を駆け抜ける「林道グラベルライド」や、雪の林道を走る「那須岳スノーサイクリング」など。

Bの市場は、その多くが海外ツーリストとなるが、自転車で1日に50~100kmを移動しながら地域を巡る、マルチデイサイクリングツアーが人気だ。長いものは、那須から東北を縦断して青森まで走破し、12日間にも及ぶ。

Cの市場に対しては、自治体や宿泊施設と組んで、全国各地の景色の良いルートやサイクリングに適したエリア、サイクリスト歓迎の宿などを紹介する、マーケティング支援型ウェブサイト(CyclistWelcome.jp)を運営している。

さて、「サイクルツーリズム」について、少しはご興味をお持ちいただけただろうか。まずはぜひ、自ら自転車でこぎ出してみてほしい。すでに自宅にちょっといい自転車があるなら、それに乗って少し遠くまで走ってみる。きっと、幾つもの新たな発見にワクワクするはずだ。自分の自転車がなければ、レンタサイクルを活用すると便利だ。様々な観光地で、スポーツタイプの自転車をレンタルできるようになってきている。

さらに、もし機会があれば、ぜひガイド付きサイクリングツアーに参加してみることをお勧めする。その地域と自転車の楽しみ方を知り尽くしたガイドが、自転車に乗る楽しさをより際立たせてくれるだろう。自転車を使って旅先を楽しむということがどんなことか、よくわかるはずだ。

また、ここ数年で飛躍的進化を遂げているe-bike(電動アシストスポーツ自転車)を使えば、体力にそれほど自信のない方でも、例えば、1日30~50kmという距離を自転車で走ることも、難しいことではなくなってきている。つまり、旅の移動手段としてまとまった距離を自転車で走り、「サイクルツーリズム」を実践することは、もはや、一部の経験豊富なサイクリストだけのものではないのだ。

With/After コロナのツーリズム業界で最も熱いジャンルの1つは、間違いなくサイクルツーリズムだと確信している。読者諸氏もぜひ、自転車の旅をお試しあれ。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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