三田評論ONLINE

【時の話題:コロナ禍と芸術】
ミニシアターからの声

2020/07/20

新型コロナウイルスの影響により、2月後半頃からお客様の数は少なくなっていましたが、常連のお客様がお越しくださっていたことと、映画の監督・出演者・関係者・配給会社様からお預かりした大切な作品をなんとか届け続けたいという思いで、席数制限や衛生面の配慮等を行いながら、営業を続けてきました。しかし、4月7日の緊急事態宣言を受けて、苦渋の決断ですが4月8日からの休館を決めました。

お客様の減少に加えて、休館により、劇場運営が厳しい状況に直面したため、休館中でもご購入いただけるように、当館のネットショップにて、《お名前のスクリーン掲載・鑑賞券・特製ポストカード》をセットとした3,000円の応援商品を販売したところ、わずか2週間ほどの販売期間中に、2,000名以上の多くの方がご購入くださいました。

また、映画監督たちや映画関係者さまの呼びかけで始動した〈未来へつなごう! ! 多様な映画文化を育んできた全国のミニシアターをみんなで応援〉ミニシアター・エイド基金によるクラウドファンディングでは、約3万人の支援者から3億円を超えるご支援をいただき、全国の100以上の劇場に分配されることになっています。

同様に多くの映画関係者様の呼びかけによる、#Save The Cinema「ミニシアターを救え!」プロジェクトという、新型コロナウイルスによって大きな打撃を受けている全国の小規模映画館(ミニシアター)等への緊急支援を、国に求める運動も継続しており、現時点までで9万人以上の方が署名をしてくださっています。

こうしたご支援や応援の動きに、当館のスタッフ一同、とても感謝しており、大変多くの皆様にミニシアター、町の映画館の文化・芸術的活動をご理解、ご支援いただけたものと、本当に心強く感じております。

その後、緊急事態宣言と神奈川県の休業要請の解除を受けて、6月1日より営業を再開することができました。スタッフとともに、感染予防・衛生面の対策を徹底し、営業再開に臨んでいますが、そうした準備や配備ができたのも、上記のご支援のお蔭であり、映画館の仕事をつないでいただけたと実感しています。

他に、休館中に取り組んだこととして、劇場支援型のオンライン上映があります。映画の配給会社さんにご協力いただき、インターネット上のオンライン上映でお客様に鑑賞していただいた収益の一部を劇場に配分してもらうというシステムです。

全国のほぼすべての映画館が休館している中、このような劇場支援型のオンライン上映を利用して映画をご鑑賞いただいた方も多くいらっしゃり、映画で収入を得られるという点では、大変ありがたい取り組みです。

一方、映画館としては、オンラインでの映画鑑賞の普及は、脅威でもあります。当館のお客様でも、この間の外出自粛により、オンラインでの映画鑑賞を始めたという方が何人もいらっしゃいます。以前は若者層の方が多く利用されていたようですが、現在は、交通費などもかからずオンラインの方が手軽だと、年配の方も多く利用されているようです。

今まで、地方のミニシアターでは、東京の公開から数カ月遅れで、上映がまわってくるということが多かったのですが、オンラインだと早く観ることができるので、地方の映画好きの方がオンライン上映の方がよいと、ミニシアターに通わなくなる可能性もあるわけです。

営業は再開できたものの、お客様はすぐには戻って来ておりません。上記のようなオンライン上映の普及もあり、ミニシアターは今後、生き残りをかけて努力をしていかなければならないと思います。

大画面、大音響での視聴は、ホームシアターでも実現できるようになりました。映画館で映画を観る意義を広く発信していかなければなりません。映画館という暗がりで、不特定多数の人と一緒に集中した環境で映画を体感する。ミニシアターという映画のセレクトショップで作品や人に出会う。あるいは、映画館までわざわざ足を運び、映画を観る前後に街の風景やお店などを含めて映画体験としていただくなど、様々に映画館で鑑賞する素晴らしさを伝えていくことが、ミニシアターの重要な仕事になると考えています。

映画業界において、厳しいのは映画館だけではなく映画配給会社、映画監督や出演者などの製作者も同様です。今まで、全国のミニシアターで上映されてきた、作家性・アート性は高いけれど規模は大きくない映画たちは、全国のミニシアターが閉館してしまうと予算が成り立たず、配給・製作されなくなる可能性があります。そうなると、日本の映画文化の多様性が、大きく損なわれると思うのです。

ですので、今は全国のミニシアターと連帯して、このコロナ危機を乗り越えたいのです。収束した後に、より多くの人がミニシアターに興味を持って、より多くの人が全国のミニシアターに足を運んでくださるように。多くの方がミニシアターを応援してくださっていることを実感できた今だからこそ、ミニシアターの素晴らしさをさらに発信していくべきであると考えています。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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