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【時の話題:「eスポーツ」を考える】
eスポーツの未来

2020/01/20

  • 稲蔭 正彦(いなかげ まさひこ)

    慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科委員長、同教授

2020年は、オリンピック、パラリンピックを通して日本が世界に注目され、スポーツと文化一色の年になる。日本は先端技術に加え、伝統的な文化とポップカルチャーで知られており、漫画、アニメ、ゲーム、音楽、コスプレなどのポップカルチャーは世界中の若者を魅了している。eスポーツは、日本が得意とするポップカルチャーのゲームの一種であると同時に、スポーツとして捉えられており、最近世界中で拡大している新分野である。対戦型ゲームを大画面に映し出し、対戦の様子を観戦する。大規模なeスポーツは、スポーツのスタジアムやコンサート会場で行われ、4万人を超える観衆が参加する大会もある。スポーツのワールドカップ、ライブコンサートさながらの熱気の中でeスポーツトーナメントが行われているのだ。

急成長している中で、現在のeスポーツには多くの課題も指摘されており、本稿では2つの乗り越えるべき点について解説する。まず、現在のeスポーツはゲームコントローラを介して操作をする対戦である点である。指の速さと正確さを競うため、スポーツよりゲームとして捉えられる。2つ目の課題は、健康を支援するスポーツとして誰もが参加できるeスポーツの視点の重要性だ。現在は、スキルを有するプレイヤーの対戦を一般の人が観戦して応援する関係であり、誰もが参加できる状況とは言えない。eスポーツを今後、いかに誰もが参加でき楽しめるスポーツとして進化できるか、全員参加を実現するインクルーシブデザインの視点が求められているのである。

eスポーツの未来を考えるにあたり、身体性と参加型の実現に向けたメディアデザイン研究科(KMD)の研究について紹介したい。メディアデザイン研究科では、国内外の大学や企業と連携して先端技術を用いた新しいスポーツの開発に取り組んでおり、この活動を超人スポーツ(Super Human Sports)と名付けている。ハリー・ポッターの小説の中で、魔法の箒にまたがり、空を飛びながらチームで競うクイディッチと呼ばれるスポーツが登場する。このクイディッチのように、超人スポーツは未来の先端技術を用いるスポーツの提案を行い、eスポーツの未来を示している。

超人スポーツは、実際に身体を動かすことが特徴である。現在のeスポーツは多くのゲームと同じように手と指の動きで対戦するが、超人スポーツは体全体を動かして対戦をする。研究開発を開始するにあたり、プロジェクトチームはあらゆるスポーツやパラリンピック競技など新しい競技やゲームを調査するとともに、「超人スポーツハッカソン」を開催して先端技術を駆使した超人スポーツの開発に取り組んできた。

ハッカソンの参加者は、研究プロジェクトメンバーを超え、多くの参加者が集いチームを組み、アイディアを出し試作をすることで新しいスポーツを体験してみるプロセスで競技提案が行われた。現在までに数多くのアイディアが生まれたが、その中から22の新しいスポーツを認定競技として紹介している。

超人スポーツをインクルーシブデザインの視点から捉えた場合、誰でも参加して楽しめるスポーツとなっているのか? 超人スポーツプロジェクトは、関連するイベントに参加しつつ、イベント参加者からの貴重なフィードバックを頂戴している。たとえば、2014年から毎年渋谷で開催されている「超福祉展」には、初年度からメディアデザイン研究科が共催しており、超人スポーツの研究成果を紹介してきた。たとえば、「スライドリフト」は、電動アシスト全方向車椅子を用いて、ドリフト走行等のテクニックで競い合う車椅子の競技である。車椅子ユーザーが全身を活用して表現豊かに車椅子を操作し表現をする。

将来的には、先端技術がプレイヤーのスキルを補うことができ、難易度を調整できたとしたら、初心者とプロのプレイヤーが超人スポーツで対戦できるようになる。現在は、パラリンピックのための競技とオリンピックのための競技に分けられているが、将来的には同一競技でパラリンピアンとオリンピアンが対戦できるようになるかもしれない。誰でもスキルレベルを問わずスポーツを楽しめる参加型スポーツが登場することを期待したい。

本年のパラリンピック開会式前日には、英国の名門校ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンが中心となっているGlobal Disability Innovation Hub(通称GDI Hub)とメディアデザイン研究科、ブリティッシュカウンシルが共催する国際会議Disability Innovation Summit 2020 Tokyo を都内で開催する予定である。

これらの研究・実践がeスポーツの未来に資するようになることを期待している。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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