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【時の話題:「eスポーツ」を考える】
eスポーツと向き合う

2020/01/20

  • 西谷 麗(にしたに うらら)

    株式会社R u s h G a m i n g /株式会社Wekids代表取締役CEO・塾員

「eスポーツチームの成功において大事なことはなんですか?」昨今、こんな質問をよく受けるようになった。ありがたいことに、「Rush Gaming」というチームは成功の道をある程度は歩んでいると認識され始めているようだ。はてさて困ったものだ……私を含む当事者はまだまだ、成功というには程遠く道半ばの半ばだと思っているのだから。

Rush Gaming は、私と他2名の共同創業者と共に、起業4年目に立ち上げた「Call of Duty」というシューティングゲームのチームである。「Call of Duty」というゲームは実はもう10年以上続く世界的大人気ゲームシリーズで、毎年のように新作が出ては盛り上がる家庭用ゲーム機きっての人気シリーズだ。どれくらい人気かというと、そのゲームをYouTube やニコニコ動画で実況配信する、いわゆる「ゲーム実況者」たちが、人気があれば年に何百万円、人によっては何千万円と、その視聴数に紐づく広告収益で売り上げる事ができるほどの影響力を持つ。そんな大人気ゲームの〝eスポーツ〟シーンで2017年当時から活躍していた4名のゲーマーと、大人気実況者1名と共に歩み始めたのがRush Gaming の始まりである。現在は5名の選手、4名のストリーマー(主に配信を行う専業のタレントのようなもの)と、5名ほどのスタッフとで構成されており、ゲーム大会での活動以外にも、ラフォーレ原宿に1週間出店し、150万円以上売り上げた。アパレルやグッズ販売へも力を入れていることが少しずつ注目を集め始めている。選手によっては個人で1千万円ほどの個人収 益があるなど、見方によっては夢のある職業である。

さて読者の皆様の「eスポーツ」への印象はどんなものだろうか。人によっては「賞金何億円」「eスポーツチーム時価総額何百億円」という世界市場に関する数字への印象が強いかもしれない。もしくは、ゲーム依存や学業をおろそかにする行為の免罪符として、マイナスのイメージを持つ人も少なくないと思う。eスポーツが今後発展する上で、eスポーツ市場とはどういうものなのか、当事者だけでなくその周りがより正しい理解を持つことは非常に重要な役割を果たすのは間違いない。

eスポーツの歴史は浅い。特に日本での歴史は浅く、スポーツにたとえるならスケートボードやストリートダンスなどのマイナースポーツのジャンルに近いのではないだろうか。いずれにしてもまだまだ日本社会でこの活動だけでは食べていくのは難しく、選手たちは選手活動だけでなく、コーチングや発信、広報活動などを通じて人によってはなんとか食べていける、というのが現状だ。選手寿命は比較的短く、決してオススメ出来るキャリアではないので、私は「プロゲーマーになりたいのですがどう思いますか?」と相談してくる人には「絶対にやめたほうがいい。賛同を求めている時点で向いていない」と答えるようにしている。eスポーツでは、クレイジーな開拓者でなければ成功などというのは間違いなく夢のまた夢だ。周囲の反対を押し切り、自ら考え自ら行動し、自ら道をつくりながら走っていけるような、クレイジーで、運を掴みとれる人間でなければ生き延びられない。何度も何度も失敗し、挫折してボロボロになっても諦めずトライし続ける人間の、またそのほんの一部だけに、「運良く」成功する可能性があるのである。

そんな業界だからこそ、「eスポーツを専門に学びたい」あるいは「教えたい」ということに、私は大きな違和感を覚えずにはいられない。eスポーツは現在、その興行からの売上など本質的なビジネス価値の拡大をしようとしている派閥と、子どもたちの夢を餌にした偽物のeスポーツ教育市場拡大を目論む派閥とが混在しているように感じる。eスポーツは今後、若者たちからの人気を獲得していくのは間違いない。だからこそ、それがより良い方向性、例えばeスポーツへの興味をキッカケに海外へ学びにいったり、一層学問に励んだり、アクセスしやすくなったデザインソフトウェアや配信機材に触れ、自らマーケティングやデザインを学んだりなどに繋がって欲しい。これが私の目指すところにある。eスポーツは見方を変えれば、福澤諭吉の唱える「実学」そのものに最も繋がりやすい分野でもあることが、今後より注目されていくことを期待してやまない。

我々が成功しているかどうかはさておき、私がプロeスポーツと、プロスポーツとを比較したときに思うことを最後に述べたい。その重要な共通点は、彼らの生き様、その物語・ストーリーが本質的価値であるという点である。現代の若者たちは、自覚がなくとも既に国際競争社会の真っ只中にいるのは言うまでもないが、なかなか親世代が築いてきた中流階級社会の中でその危機感が芽生えにくいのも事実だ。一方で曖昧な将来への不安を持ちつつ、やりがいのあることや好きなことをして食べていきたいと考える若者たちにとって、その「好きなこと」で挫折しながら、厳しい環境の中で夢破れたり成功したりしていく同世代のプロゲーマーやチーム達が見せる背中は、親世代が想像するよりも大きく、生々しい現実だ。だからこそ、今後よりその価値は大きくなっていくだろうと、私は思う。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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