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【時の話題:ドローン社会の到来】
ドローン前提社会

2019/08/19

  • 南 政樹(みなみ まさき)

    慶應義塾大学SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアム副代表、同大学院政策・メディア研究科特任助教

ドローンは個人が空を自由に活用できるツールである。今日では、操縦を楽しむホビー用途以外に、空撮、物流、点検、農漁業等の産業用途や、人命救助、災害対応等でも使われている。

ドローンの歴史は古い。諸説あるが1935年に英国軍が射撃訓練用に開発した無人標的機「Queen Bee」がルーツと言われている。Queen Bee は、電波による遠隔制御=ラジオコントロール(ラジコン)を応用し、陸上から操縦できるよう有人機を改造したものであった。これに影響された米軍は1936年に同じ原理で遠隔操縦できる無人標的機を開発する。しかし、よい出来ではなかったことから、巣にいながら働かないオス蜂=「drone」と命名した。米国はその後も無人機の開発を続け、第2次世界大戦時には1万機を超えるドローンを生産した。

ドローンはもともと飛行機をラジコン化していることから、固定翼機が主流であった。しかし、今日、多くの人が「ドローン」として思い浮かべるのは、プロペラが複数付いたマルチローター機と呼ばれる回転翼機である。マルチローター機は、それぞれのプロペラの回転数を調整するだけで縦横無尽に移動できるのが特徴である。マルチローター機が21世紀に入って普及したのは、小型コンピュータの性能が向上し、リアルタイムで姿勢や運動を制御できるようになったことが大きな要因である。今後もコンピュータ技術の進歩により、空を自由に使いこなせる度合いも大きくなると考えられる。

ドローン(マルチローター機)の可能性は大きく分けて次の3つである。1つ目は自由なポジショニングである。空撮はまさにこの特性を活かしたアプリケーションである。カメラを機体に搭載することで、自由な視座から映像を撮影できる。またこの特性により、ものを正確な位置まで運ぶなど地上の任意の位置に対してアプローチできる。2011年にフランス建築美術館で披露された作品では、8台のマルチローター機が自律分散協調してレンガを設計図に示された位置に運び、高さ7mの塔を組み立てている。これはマルチローター機で持ち上げられる重量が増えれば、クレーンの代わりとして、正確な位置に荷物や資材を運べる可能性を示している。

2つ目はドローン自身がコンピュータであることである。ドローンは飛行中、自機の姿勢等の変化を検出しながら操縦者からの入力に応じて、次の出力を決める処理を繰り返すことで、誰でも安定的に飛ばせる容易さを実現している。ドローンも他のコンピュータと同様、ネットワークに接続したり、コンピュータの性能が向上したり、より高度なコンピューティングリソースを活用できれば、AIに代表される認識や学習の能力を活用できる。

3つ目は、ドローンが群れで行動できることである。2018年の平昌オリンピック開会式では、1218台のドローンが展開し、夜空に絵を描いた。自律的に協調行動をとれることから、1台のドローンでは力不足でも、複数のドローンが連携することで補える、そんな可能性を示している。

現在のドローンは、マルチローター機も固定翼機も、マイクロコンピュータを中心としたデジタルテクノロジーの「寄せ集め」で構成されている。これが「ドローンはまだ黎明期である」と言われる所以である。ドローンを構成する技術には、ドローン専用のものはほとんどないと言ってよい。たとえば、GPS等の測位技術、デジタル映像、デジタルセンサー等、スマートフォンで広く使われるようになった技術がドローンでも広く活用されている。

あえて「寄せ集め」と表現したのは、より洗練された未来があるからである。たとえば、操縦者の意思を伝える通信には、ラジコン飛行機等と同じ送信機・受信機を使っているが、この通信方式はまだまだ改善の余地がある。通信が1対1でリソースを占有するタイプから、ドローンに特化した、あるいは他の移動ロボットと共有できるようなリソースを上手に使うようなネットワークタイプへ変化すれば、これまでのような「電波の届く範囲」や「同時に飛ばせる台数」の制限を事実上なくすことができる。そうなると、世界中のどこからでも操縦できるようになるし、一箇所で数百台規模のドローンを同時に飛行させられる。2020年度には、携帯電話網とドローンが直接つなげられるよう法律の改正が予定されており、5Gの市場投入と呼応する形で、ドローンと操縦者(オペレータ)との関係性と通信のあり方は大きく変容すると考えるべきだ。

私が副代表を務めるドローン社会共創コンソーシアムは、ドローンが現代のパソコン並に普及した社会を「ドローン前提社会」と位置づけ、そのあるべき姿を研究の対象として活動している。ドローン前提社会という言葉は、師匠である村井純教授の受け売りである。私が村井研の学生だった頃、「これからはインターネット前提社会になる」と熱く語り、我々を鼓舞してくださった。あれから30年が経過し、私は師匠の当時の想いに共感し、「ドローン前提社会」をスローガンに掲げ、塾内外の多くの仲間と共にドローンに関わるすべての人を鼓舞していきたい。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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