【時の話題:平成を振り返る】
財政再建と税制改革が切り拓く新時代
2019/04/22
わが国の政府債務(国と地方の合計)は、平成元年3月末(昭和63年度末)に約250兆円だったが、平成30年度末には約1100兆円まで累増する見込みで、平成の間に約4.4倍に膨らんだ。日本の名目GDP(国内総生産)は、平成元年の412兆円から、平成30年の549兆円(速報値)へと増えはしたが、それ以上に政府の借金は大きく増えた。
バブル崩壊後に、景気対策と称して、国債を増発して公共事業を大規模に行ったが、昭和時代の好況を取り戻すことはできなかった。結局、景気は良くならず、借金だけが残った。
平成時代の財政は、財政出動と財政再建を繰り返す中で、後戻りできないほどに悪化していった。まるで、ダイエットとリバウンドを繰り返し、元の体重に戻れなくなるかのようだった。景気対策で財政出動をしては、無駄遣いを批判され、行財政改革に取り組み歳出を削減する。いったんは財政収支が改善するものの、折悪しく経済危機が起きて元の木阿弥となり、またぞろ景気対策で財政出動。そして、無駄遣いの批判。その繰り返しだった。
バブル崩壊という経済の難局に直面して、景気対策を講じるが効果が上がらず、農村に建った温泉ランドが批判されたのも、この頃だった。
その後、橋本内閣で行財政改革に着手し、財政収支赤字を削減する計画を立てた。しかし、直後に大手金融機関の破綻に端を発した金融危機がわが国で起こり、橋本内閣の財政構造改革は停止される羽目になった。
後継の小渕内閣では、首相自ら「世界一の借金王」と揶揄するほどに、危機対策の公共事業のために国債を増発した。それでも、不良債権処理が進まず、景気は低迷したままだった。問題は金融にあったのだから、財政政策では解決できないものだった。
こうした閉塞感の中、「自民党をぶっ壊す」と唱えて政権に就いた小泉内閣では、長期政権下で行財政改革に取り組み、歳出削減が進み財政赤字が減少した。政権の終わりには、2011年度に基礎的財政収支の黒字化という財政健全化目標を立てて、後進に道を譲った。基礎的財政収支とは、今年の政策的経費が今年の税収で賄い切れるかを見る指標で、政策的経費を税収だけでは賄えず、借金にも財源を頼らざるを得ない状態だと赤字になる。
しかし、2008年に起きたリーマンショックで深刻化した世界金融危機によって、わが国の景気も大きく落ち込み、財政健全化目標は撤回せざるを得なくなり、またぞろ景気対策に勤(いそ)しむことになった。
平成最後の内閣となった安倍内閣では、歴代政権に比べて財政再建に熱心とはいえないものの、基礎的財政収支の赤字は着実に減っている。とはいえ、第2次安倍内閣で立てた財政健全化目標の達成年次は2020年だったが、消費増税で得た財源を収支改善に回さず社会保障費の増加に充てることとしたため、達成年次を2025年度に先送りした。
消費税に目を転じれば、平成元年4月に消費税が税率3%で創設された。まさに、平成時代を象徴する税になるはずだった。当時は、所得税の重税感が国民の間で強く認識され、所得税や法人税といった直接税ばかりでなく消費段階で払う間接税にも税負担を分散した方がよいとする「直間比率の見直し」が、税制改革の強い動機付けだった。中曽根内閣と竹下内閣で、昭和から平成への変わり目に大きな税制改革が行われた。
実は、平成時代に、これに勝る大規模な税制改革は、結局行われず仕舞いだった。税制改革を模索した政権はあったが、消費増税に着手できないトラウマからか、政治は国民への説得を積極的に試みようとしなかった。
その間、日本経済をめぐる環境は大きく変化した。冷戦が終わり、グローバル化が進んだ。少子高齢化がさらに進み、社会保障費がますます必要とされる中で、その財源を負担する勤労世代の人口が減る状況になった。社会保障制度の改革も緩慢で、高齢者への給付が温存されたままになっていた。
そうした中で、法人税を増税して財源を賄おうにも、厳しい国際競争にさらされる日本企業に重い税の支払いを課すのは難しい。所得税を増税しようにも、現行税制のままだと勤労世代にばかり重い税負担が及び、高齢者はほとんど負担しない。受益と負担の世代間格差がますます拡大しかねない。相続税は、今とれている税収でも2兆円強しかなく、財政全体を支えられない。
そうなると、基幹税の中では消費税こそが、日本経済につける傷を小さくできる。同じ税収を得るにも、所得税や法人税よりも消費税の方が経済成長率を下げずに済むとの学術研究がある。消費税は、輸出品には課税しないから、税率が上がっても輸出競争力を維持できる。勤労世代だけでなく高齢世代にも負担を求めることができ、世代間格差の是正に貢献できる。
もちろん、所得税による所得格差の是正も大事だから、消費税と所得税をバランスよく課すことが求められる。
平成の財政運営では、適時適切に税制改革を断行する政治家が現れなかった。累増した政府債務が膨張しないようにする財政再建と合わせて、大きな宿題が、新時代に残された。
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。
2019年4月号
【時の話題:平成を振り返る】
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土居 丈朗(どい たけろう)
慶應義塾大学経済学部教授