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【時の話題:シェアする社会の未来】
フリマアプリが変える消費者行動

2018/12/12

  • 山本 晶(やまもと ひかる)

    慶應義塾大学大学院経営管理研究科准教授

近年のフリマアプリ、スキルシェアサービス、民泊仲介サービスなどの普及により、企業が生産・提供する製品やサービスを消費する側●●●●●にあった消費者が、自身の保有する余剰資源を他の消費者へ提供する側●●●●●に立つようになった。ここで言う「余剰資源」とは「タンスのこやし」となっている服、使用していない部屋や別荘などの不動産、使用していない自家用車に加えて、料理技術、語学力などのスキルも含まれる。こうした取引を可能にするサービスが数多く生まれ、広範な財・サービスが消費者間で取引されるようになった。

「お古」「おさがり」として服をプレゼントする、自家用車で友人を送迎する、友人を部屋に泊める、といった行動は古くから行われてきた。しかし、友人・知人ではない相手に対してそうしたサービスが提供され、それに対して対価が支払われる、といった現象は着目に値する新しい現象である。

余剰資源の個人間取引を可能にするサービスとして、近年成長が目覚ましいものの1つに、フリマアプリが挙げられる。フリマアプリの普及は、消費者の日常の様々な場面で消費行動を変えている。

第1の変化は、必要なときに必要な分だけ消費し、その後は別の消費者に販売するという消費スタイルが若い世代を中心に増加しているという点である。このような消費スタイルにおいて、製品は所有するモノから利用するサービスへとシフトしている。

第2の変化は、新品・中古にこだわらず欲しいものを手に入れる購買行動の増加である。マーケティングの教科書で描かれる従来の消費者の購買行動は、企業が販売する新品の商品を購入する姿である。企業からではなく個人から、しかも新品ではなく中古品を購入するということは、「消費者が購買する商品=企業が販売する新品」というこれまでの常識を揺るがす変化といえる。この変化は、製品・サービスを販売する企業にとってはさらなる競争の激化を意味する。従来からの新品を販売する競合他社との競争に加えて、中古品を販売する個人とも競争することになるためである。新品を生産・販売する企業は、この新たな消費者とどのように向き合っていくのかを迫られることになる。

しかし、中古品市場の盛り上がりを、新品の需要を奪う脅威と捉えるのは一面的である。実は、フリマアプリでは期間限定商品やコラボ商品などの限定品は1次流通の販売時よりも高い価格で売れることがある。つまり、希少性の高いものや物語性の高いものは、2次流通で高く評価される可能性を持つ。

また、プラットフォーム上の出品者は、自社ブランドを取り扱う販売チャネルと考えることができる。新品と比較して、中古品は一般的に安価である。フリマアプリ上での購入は、製品を手軽に試す場と位置付けることができる。気に入った消費者がファンになれば、新品を購入することもあるだろう。そのように捉えると、中古品市場の盛り上がりは脅威ではなく、さらなるファンを増やす機会となる。

消費者行動の第3の変化は、売ることを前提に買う消費者の登場である。このことは、価格や品質に加えて、再販の可能性および再販価格という新たな属性が購買の意思決定要因に加わったということを意味している。後に他者に売ることを視野に入れて商品を購入するという行為は、家や車など限られた製品カテゴリでは従来から行われていた。しかし、フリマアプリの登場により、売ることを前提に買う、売ることを前提にきれいに使用するといった行動が、洋服や化粧品といったほかの製品カテゴリにも広がっている。

またフリマアプリの普及は、意外な市場にも影響を与えている。中古品市場の成長は、リペアやクリーニングの領域で新たな需要を創出しているのである。消費者行動の第4の変化は、購入した中古品を修理する、あるいは出品するために修理し、売れる可能性を高める、再販価格を高める、といった行動の登場である。従来、リペアやクリーニングは購入者本人の利用価値を高めるために行われていた。消費者間の中古品取引の増加は、利用価値に加えて交換価値という新たな価値をリペア市場に生み出しているのである。

最後に、個人間取引が普及し、社会全体で無駄のない、循環型社会が実現するために必要な、ガバナンスの重要性について触れておきたい。フリマアプリで行われているのは個人間取引であり、売り手は基本的にアマチュアである。このことは取引の不確実性が増大することを意味している。無駄のない合理的でスマートな消費社会がより一層発展するためには、安心・安全で信頼性の高い取引環境の確保がカギとなる。そのためには、不正ユーザーの排除、相互評価システム、カスタマーサポート、補償サービスといったガバナンス施策の整備が必要となる。また、個人間取引を行う利用者のリテラシーを高める教育も望まれる。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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