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【時の話題:シェアする社会の未来】
スキルを「シェア」して地域と暮らしを変える!

2018/12/12

  • 角田 千佳(つのだ ちか)

    株式会社エニタイムズ代表取締役社長・塾員

仕事で遅れがちな、子供のお迎え。1人でできない、家具の組み立て。楽しい旅行の間の、ペットの世話、パソコンのちょっとした修理。誰かに頼みたいけれど、頼める人が誰もいない…。

かつて日本では、ご近所さんに子守を代わってもらったり、大工仕事を手伝ってもらうなど、何か困った時に助け合う「強いつながり」の地域コミュニティがありました。しかし、ここわずか数十年ほどで、このようなご近所付き合いの希薄化が進んでいます。私自身も大学卒業後に1人暮らしを始めてから、同じマンションの方と顔を合わせることさえほぼなくなり、希薄化を実感しました。

「地域のつながりを取り戻せないか」。私たちがそんな思いで開発したのが、「ちょっと助けてほしい」人と「それ、得意ですよ」という人をインターネットでつなぐアプリケーション「ANYTIMES(エニタイムズ)」です。例えば、家の掃除や料理、家具の組み立て、ペットの散歩など、日常のちょっとした用事を依頼したい人と、空き時間に仕事をして、誰かの役に立ちたい人がこのプラットフォームで出会い、仕事の依頼と受注をします。言わば、「スキルのシェアリングエコノミー」です。オンラインのサービスなので、24時間365日、日本全国どこでも利用でき、登録も無料です。私たちは、この事業を通して、希薄化している地域コミュニティを、今の時代に合った形、「緩やかなつながり」として再構築しようとしています。

かつて存在した「強いつながり」は、親戚や同じ町内会の仲間などのコミュニティなので、ボランティアのような形で助け合っていました。一方、「緩やかなつながり」は、ちょっとした知り合い程度の薄い関係なので、無償で助け合うのは難しく、「お金」を介在させる必要がありますが、それにより、煩わしさや申し訳なさを感じなくてもすみます。また、これは新しい経済活動ともなります。そして、「緩やかなつながり」は、困ったことがあれば、必要な時に、必要な人が、必要な場所に来てくれます。こうしたサービスの浸透により、近所の知り合いの方々との新しい「緩やかな」コミュニティが、徐々に生まれ始めています。このような安心感を与えてくれるコミュニティは、若い世代だけでなく、今後の超高齢社会においても必要になるでしょう。

また、このサービスには、もう1つの大きな可能性があります。人々の働き方です。今までの経験や特技などを活かして、自分のペースで働く専業主婦の方や、アクティブシニアの方、そして副業や兼業で働かれる方も増加しています。さらに、エニタイムズを通して仕事をしたことがきっかけとなって、起業した事例も生まれています。

実は、これには理由があります。エニタイムズで成立した仕事は、派遣型ではなく、個人間の直接の業務委託契約となります。つまり、仕事の受託者は、個人事業主として働くことになるのです。評価も、従来のように雇用されている会社を通してではなく、依頼者から直接コメントを受け、それが自分の公開プロフィールに全て表示されます。そうすることで、個人としての意識や責任感が強まり、また自信につながっていきます。仕事を請け負ったユーザーからは、「新たな自分の可能性に気付くことができた。お金を稼ぐだけではない喜びある」「家族のためだけに当たり前に行っていた家事がスキルとして評価され、仕事になり、喜んでもらえるのが嬉しい」という声も多く寄せられています。

現在、エニタイムズで成立しているサービスの種類は多岐にわたり、家事以外にも、パソコン修理や語学・音楽系のレッスン、相談といったようなものもあります。私たちの目的は、あくまで「新たな地域コミュニティの構築」なので、事業を特定のスキルやサービスに特化させるのではなく、多様なニーズとスキルをマッチングして人と人とのつながりを増やすこと、見方を変えれば「スキルの地域内循環」を高めることが重要だと考えています。

2013年の創業当時、シェアリングエコノミーという言葉さえ、全く認知されていませんでした。5年経った今、シェアリングエコノミーのサービスを実践する企業は増加し、認知も拡がりつつあり、2022年には当該市場規模が1,386億円に達するとも言われています(矢野経済研究所の推計)。しかし、実際にシェアリングエコノミーのサービスを利用したことのある人は、日本ではまだ少数で、特にスキルの分野での利用者はまだまだ少ないのが現状です。

今後、シェアリングエコノミーの浸透により、地域の新たな「緩やかな」互助システムの構築と、多様な働き方、生き方の創出が、促進されていくことと思います。そして、私たちは、シェアリングエコノミーサービスの事業を通して、社会の枠や固定観念に囚われない、豊富な幸せの尺度を持った社会を実現していきたいと考えています。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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