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【時の話題:シェアする社会の未来】
ウーバーで考えるシェアリングエコノミーの本質

2018/12/12

  • 田邉 勝巳(たなべ かつみ)

    慶應義塾大学商学部教授

「シェアリングエコノミー」とは、個人が保有する遊休資産を、スマホのアプリに代表される情報通信技術によって、それを必要とする他の人とマッチングさせ、有償でシェア(貸し借り)するサービスを一般に指す。遊休資産とは、場所や乗り物、モノ、人(技術)などが該当し、場所の代表例がエアビーアンドビー(Airbnb)、乗り物の代表例がウーバー(Uber)である。ここではウーバーに代表されるライドシェアを例に、何をシェアしているか、ライドシェアが広がる背景や、社会経済に与える影響を考えてみたい。

まず、ウーバーの使い方を簡単に説明しよう。利用者はウーバーの無料アプリをスマートフォンにダウンロードし、個人情報を予め入力し、クレジットカードと紐づける。利用者は目的地を入力すると候補車の到着時間や、目的地までの料金などが表示され、依頼すれば数分後にウーバーが到着する。ウーバーは流しのタクシーと異なり、タクシーが捕まらない、待ち時間や目的地までの到着時間・料金が不明という不満を解消するだけでなく、多くの場合、タクシー料金よりも安い。ライドシェアは安価で便利な交通手段として消費者からは歓迎され、自家用車を持ち、隙間時間を売りたい運転手からも歓迎されている。自家用車の代替手段になる可能性もある。一方、客を奪われるタクシー業界は敵視している。

カーシェアもシェアリングと言える。しかし、ライドシェアとの大きな違いは、前者が普段使っていない個人の自家用車をシェアするのに対し、後者はそれだけでなく目的地まで送迎する運転サービス(技術、空き時間)もシェアする点である。また、カーシェアは企業が自動車を保有し、サービスを営利的に提供する例も多く、この場合、レンタカーと本質的な違いは無い。

ウーバーはタクシー会社と異なり、プラットフォーム(アプリ)を提供し、運転手と利用者をマッチングさせる仲介サービスである。ウーバーは運転手を雇う必要がなく、自動車や車庫といった固定費も負担しない。別の見方をすれば、ウーバーにとっては移動サービスの利用者だけでなく、運転手も別の顧客と言える。これは経済学で言う二面性市場であり、ウーバーは運転手と利用者双方に対して利潤の合計を最大にする料金を弾力的に設定できる強みがある。需要が急増するとき、供給が少ないとき、料金は高騰する。

もう1つの特徴はネットワーク効果である。ライドシェアでは、運転手とサービス利用者を空間的・時間的にマッチさせる必要があり、その地域の運転手と利用者が多くなるほど、利用者は到着までの時間が短くなり、運転手は顧客を見つけやすい。つまり、運転者と利用者のどちらかでも増加すれば、他の運転手、利用者の直接的・間接的な便益になる。これがネットワーク効果であり、特定の企業が独り勝ちしやすい。ウーバーの競合企業としてはリフト(Lyft)、グラブ(Grab)、滴滴出行などが世界各地でサービスを提供しており、アメリカなどでは複数のライドシェアが競争している。

ただし、現在ウーバーが日本で提供しているサービスは既存のタクシーの配車サービスに過ぎず、「ライドシェア」サービスは提供していない。日本では、一部の地域を除き、自家用車による有償(お金を受け取っての)輸送、いわゆる白タク行為が道路運送法で禁止されているからである。ライドシェアとしてのウーバーは「公共交通空白地有償運送」としてごく一部の過疎地域でのみ特別に認められている。このため、ウーバーは日本のタクシー市場にほとんど影響を与えていない。

タクシー市場は2002年の規制緩和後の揺り戻しで規制が再強化され、供給過剰な地域と指定されれば、タクシー会社の新規参入は禁止、増車は事実上不可能で、大幅な運賃値下げもできない。規制の根拠の1つは、交通サービスの最も重要な品質である安全性である。ウーバーの運転手はレビューシステムによって一定のサービス水準を達成しているが、タクシー並みの安全基準を満たしているかは不明である。

もう1つは、流し営業の場合に限るが、価格メカニズムが機能しないからである。タクシーを利用する人は早く移動したいために利用するが、次に止まるタクシーが何分後か、料金が安いかは分からない。そのため、タクシー会社は料金を安くする理由がない。そこで、運賃が規制されているのだが、皮肉なことに、ライドシェアは料金を見て利用者が選択できるので、ウーバーを規制する根拠にはなりえない。

安全性が確保されれば、ライドシェアの解禁は、より安価な移動を実現し、人々の交流を促し、地域経済にも好影響を与える。同時に、昨今急増する外国人旅行者にとっては母国で使い慣れたアプリで移動できる安心感も提供できる。ライドシェアが明らかにしているのは、既得権益者と行政の対応の遅さが技術革新を阻害する日本社会かもしれない。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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