三田評論ONLINE

【時の話題:著作権保護期間の延長】
著作権保護期間って、本当に長い方が良いんでしょうか?

2018/06/26

  • 三野 明洋(みのあきひろ)

    (株)NexTone相談役・塾員

平成13年10月、著作権等管理事業法が施行されたことに伴い、弊社NexTone(旧イーライセンス)を創設し、その後17年間にわたり音楽を中心とした著作権管理事業を運営してまいりました。

著作権者の権利保護及びその活用が主たる業務である著作権管理事業者であるからには、著作権保護期間は長い方が有利と考えるのが一般的だと思います。しかし、著作権保護期間は、本当に長い方が良いのでしょうか? どの程度の長さが適切なのでしょうか?

管理事業法施行以前から永きにわたり音楽著作権管理事業をリードしてきた日本音楽著作権協会(JASRAC)の主張は「デジタル化・ネットワーク化の進展に伴い、国境を越える著作物の流通がますます増加していくことが見込まれる中、著作権保護の国際的調和の観点から、保護期間延長は欠かせない」としており、ごもっともと言わざるを得ません。すなわち「長くすべし!」なのです。

しかし、著作権法第1条に書かれた目的には「著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与すること」と記されています。「保護期間は短い方が豊かな二次創作が生まれ、文化の発展につながる」との意見も聞こえてくる中、では、文化の発展にとってはどの程度の長さが適当なのでしょう?権利ビジネスと言う視点ではなく、一般的な数値的視点から、当社契約作品を例に保護期間を考えてみましょう。

一昨年大ヒットしたアニメ作品「君の名は。」原作・脚本・監督の新海誠氏は45歳、RADWIMPS(ラッドウインプス)が歌う主題歌等4作品の作詞・作曲者野田洋次郎氏は32歳です。

例えば、男性の平均寿命を80歳とした場合、保護期間は著作者の死後翌年の1月1日から50年なので、新海誠氏の作品であれば85年、野田洋次郎氏であれば98年となります。30歳のアーティストが書いた作品の場合では、作品の誕生からちょうど100年となるのです。保護期間を70年に延長した場合は120年です。このように1世紀を超える保護期間ってどうなんだろうと考えてしまいます。

少々前の話ですが、米国の著作権の保護期間に関する裁判が話題になりました。伝統的な文化がなかった米国では、映画や音楽などの新しい文化の育成に力を注いだ歴史があり、その結果、保護期間が切れそうになると関係団体などの陳情により20年ずつ延長され、30年が50年に、そして70年に、今回は最後の改正か? と言われつつ、ディズニーのミッキーマウスなど公表の著作物(企業が所有する著作権)は公表から95年に延長されました。

しかし、米国が建国された当事の著作権思想である「パブリックドメイン」を重視する考え方もまた強く残っています。この考え方は、著作権を人類共通の財産とすれば、自由に使用することが出来、より人類の発展に繋がるというものです。要するに、保護期間は出来る限り短い方が良いという考え方なのです。今回の著作権延長法の裁判では、著作物の使用者側から「延長法は過去の著作物の引用を妨げ、自由な創作活動を阻むもので、憲法で保障された表現の自由を脅かす」などとして、司法省に延長法の運用をやめるよう提議されていました。

ミッキーマウスですら、元々先住民が残したネズミの絵がアイディアの基となっているなんて話もありますが、そもそも、純粋な創作創造活動から生まれる「オリジナリティ」なんてほんの少ししかないのかもしれません。

人類史的な広範な視野から考えるべきなのか? 狭義的に保護を考えるのか? 難しい問題だからこそ世界中が注目していたのです。結果は僅かな差ながらパブリックドメインの負け、保護期間の95年への延長が決定されました。

話を戻して、今まさに生み出され、多くの著作権者の皆さまからお預かりしている音楽作品、さて100年後にはどんな環境で楽しんでいただいているのでしょうか。

今から100年前と言えば、第1次世界大戦が終結し、米国では禁酒法が施行され、テレビドラマや映画となった「アンタッチャブル」の時代でした。

日本では竹下夢二の「宵待草」や唱歌「浜辺の歌」などが流行していたようですが、そのまた20年前となると「箱根八里」や「美しき天然」、何となくピンと来ない方も多いのではと思います。

1923年に創設されたウォルト・ディズニー・カンパニーもあと僅かで100年を迎えます。そういう意味からも著作権保護の歴史はディズニーとともに歩んできたとも言えるのではないでしょうか。

人生100年と言われる時代の著作権保護期間、権利者にとりましても、文化の発展という視点からも、適切な期間とは? なかなか悩ましい問題です。


※所属・職名等は当時のものです。

  • 1
カテゴリ
三田評論のコーナー

本誌を購入する

関連コンテンツ

最新記事