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【時の話題:コスプレ文化】
コスプレ文化の創造性

2018/02/01

  • 杉浦 一徳(すぎうら かずのり)

    慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科准教授

世界中の人々、特に若者を虜にしている日本の「マンガ」、「アニメ」、「ゲーム」といったコンテンツ(作品)は、「読む」、「見る」、「遊ぶ」だけではなく、それら作品に登場するキャラクタに「なりきる」楽しみを生み出している。それが「コスプレ」である。作品の中で登場する人物、動物といったキャラクタは、作者の中で創造され、魅力的な存在として表現される。それら作品に接している人々は、その原作に登場するキャラクタが持つ個性を楽しみ、やがて、作品の中で視覚化されているごく一部の情報からキャラクタの性格や、日常生活などを想像し、より深い愛情や近親感を持つことになる。このようにして原作から派生されていく世界を「2次創作」と呼ぶが、その1つの例として、人々がキャラクタに装いを変え、そのキャラクタになりきり、その個性を共有することを「コスプレ」と呼び、それらを楽しんでいる人々を「コスプレイヤー」と呼ぶ。

昨年夏、名古屋で開かれた世界コスプレサミット(WCS)2017では、世界30カ国以上の国々からコスプレイヤーが参加し、舞台上で演技・演出を行い、コスプレチャンピオンシップを決めるコンテストが開催された。またその一大イベントは、インターネット上でも中継された。このようにコスプレは世界の若者の中で愛される1つの文化として定着している。

若者にとって、コスプレの持つ魅力は、作品に登場するキャラクタの魅力や愛情表現だけではなく、その過程における自己の隠蔽と新たな自己の発見、そしてそれを共有することによる他者からの認知と承認である。コスプレしてキャラクタになりすますことで本来自分の持っている個性を隠蔽し、新たな個性、2次創作として生み出したキャラクタの個性を表現することによって異なる存在を表現する。コスプレイヤーは、かわいい自分、普段とは違う自分をみてもらうために、より自己を隠蔽する。キャラクタと同一化するために、髪の毛はウィッグで覆い、目はカラーコンタクトレンズで色を合わせ、化粧をし、衣装はより豪華になっていく。さらには、着ぐるみマスクをかぶって完全に自己を隠蔽し、「着ぐるみコスプレイヤー」として活動する人々もいる。またこのようにキャラクタになりきるその一連の経験の中で新しい個性を発見、ないしは生み出し、自分の中に取り入れていく。本来の個性が消え、新たなキャラクタとなった自分ではあるが、実はその中で新たな自分の個性を模索し、創造するといった創意工夫がなされている。

新たなキャラクタとなった自分をソーシャルメディア上に表現し、より多くの人々に認知してもらうためには、それらを写真やビデオといった形で投稿する必要がある。そのために、より美しく躍動感ある写真を求め、場合によっては、公園などといった郊外に赴き、時にはキャラクタと作品にまつわる地域(聖地)に足を運び、共に登場するキャラクタのコスプレイヤーと現地で撮影を行う。作品の場面と照らし合わせ、より忠実な写真撮影を行い、そこから派生した2次創作に基づいたストーリー写真を展開していくこともある。時にはプロカメラマン顔負けの撮影機材を導入し、撮影スタジオでとっておきの「作品」を創り出す。

コスプレイヤーは、このようなコンテスト、イベント、撮影会などでコスプレを楽しみ、「作品」を生み出し、そしてネット文化を通じてそれらを共有する。ツイッター、フェイスブック、インスタグラムなどに代表されるソーシャルメディアにその時々の写真、ビデオを発信することで新たな自己表現を提供し、ネット文化で形成された交流の場=「コミュニティ」から「いいね!」や、コメントが来往する。コスプレという活動の中で、努力と経験によって変化した自分をコミュニティの中で他者から承認してもらい、間接的に新たな自分の個性を認知してもらう。ここでも、より理想的なキャラクタになりきるために、ネット文化で往来する様々な情報を通じて、より高い承認欲求を満たしていく。

またネット上でこれらコスプレイヤーが投稿した「作品」を見た人々は、それらに魅了され、コスプレの世界へと手を染めていく。

そういう意味では、コスプレ文化の世界的な浸透は、ネット文化が影響力の根源といえる。若者は、これらソーシャルメディアに投稿されている作品としてのコスプレを通じて、その新しい表現や魅力に触れ、それらに倣い、互いに刺激しあい、創意工夫を付加することでより発展していく。そこで生まれた2次創作としてのキャラクタが新たなコンテンツとして派生し、場合によっては、商品化価値の高い作品として育っていく。このようなコンテンツとしての消費と創造のスパイラル(螺旋)が、コンテンツを生み出す無限の可能性を秘めているところが、若者にとっても、そして、これからの商品価値としても、魅力的な存在となる。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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