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【時の話題:ビットコイン】
日本ではビットコインの利用は普及しないであろう理由

2017/12/01

  • 久保田 博幸(くぼた ひろゆき)

    金融アナリスト・塾員

ビットコインに関するニュースも多くなり、世間の注目度も高くなってきている。ビットコインなどの仮想通貨に絡んだベンチャー企業なども立ち上がっているようだが、ビットコインが通貨の代替品として日本で普及する可能性は極めて低いと見ている。

ビットコインはその名の通り通貨のような使い方ができる。しかし、円やドルのように政府や中央銀行などによって保証された通貨ではない。国は法定通貨を定め、その通貨は「決済手段として使う権利」を有する。円つまり日銀券は日銀法で法貨として無制限に通用すると定められており、

強制通用力を有している。強制通用力を認められた貨幣による決済は、額面で表示された価値の限度で最終的な決済と認められ、受け取る相手側はこれを拒否できない。つまり日本国内で日銀券は制限なく使用できる。反対に強制通用力の無いものでは、決済を拒否できることになる。

日本における通貨の円とビットコインなどの仮想通貨との大きな違いは、この通貨の強制通用力の有無ということになろう。さらに強制通用力で守られた通貨は交換力が保証される。つまり流動性が保証される。これに対してビットコインなどの仮想通貨はこのような交換力の保証がない。

ビットコインはマイニングやブロックチェーンという仕組みそのものが存在の裏付けとなっているが、国などによってその価値が保証されたものではない。裏を返せば、その国の信用力に問題がある場合や、ハイパーインフレによって通貨価値が大きく下落している国での利用、通貨の持ち出しに大きな制限のある国での利用などでは、通貨の代替品としてビットコインのニーズがある。それは金(ゴールド)や米ドルと似た面がある。米ドルであれば世界各国との取引に使うことができる。そのようなメリットをビットコインは保持している。

海外への送金ではかなり手数料が掛かるし面倒である。その点でもビットコインは便利であるが、それについてはブロックチェーン技術を使って日本のメガバンクなどで電子通貨の実験を行うようである。ただし、このメガバンクの電子通貨は円に連動していることでビットコインとは異なる。メガバンクの電子通貨を国内で利用する際には円と同様に価格変動リスクがほとんど存在しない。

誰が円の価値を維持しているのかといえば日銀である。日銀券を発行している日銀の目的は通貨価値を維持することである。日銀法第二条に「日本銀行は、通貨及び金融の調節を行うに当たっては、物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資することをもって、その理念とする」とある。これは極度のインフレなどによって貨幣価値が急落してしまうことを避けようとするものである。

日本では日銀という組織が金融政策のみならず、インフラの整備等により円の価値を維持させている。日本国民が国内で円という通貨を使う際には、極力その価値が大きく変動しないように日銀が調節を行っているのである。

これに対してビットコインにはこのような信用を裏付ける組織が存在していない。さらにビットコインは市場規模が小さいこともあり投機的な動きにより、価格が大きく変動する。国内で円を使う限り、その価値の変動を感じることは少ないが、ビットコインなどの仮想通貨では今日と昨日で通貨価値が大きく異なってしまうこともあり、これも通貨価値の安定している国では使い勝手が良くないことになる。

もしも法律で守られていないビットコインと法定通貨である円が、同じような利用価値を有するといったことになれば、日本の国民が法律を遵守しなくなった場合や、法律を制定する国への信用度が極度に低下する場合などになるのではなかろうか。

ビットコインなど仮想通貨を利用する際には手数料が掛かることにも注意する必要がある。当然ながら一万円札を利用しようとして、その際に手数料が必要になることはない。

いまのところ日本の国民が通貨としてビットコインなどの仮想通貨を使うインセンティブはなく、一部海外送金手段など以外には利用目的が存在しない。このため現状でのビットコインの取引の目的は、その値動きの大きさなどから見ても、あくまで投機的なものが主流と言えよう。ただし、何かしらのきっかけで円に対する信認が大きく崩れるなどした際には、ビットコインなどの仮想通貨のニーズが高まるかもしれない。

ビットコインの裏付けとなっているブロックチェーンなどの仕組みについては、応用が期待される。今後この仕組みを利用することで手軽に海外送金などを行えるようになるとみられる。不動産登記への応用も期待されているようである。ビットコインなどの仮想通貨は通貨というよりも、その技術の応用の方を注目すべきかと思われる。


※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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