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【時の話題:ビットコイン】
仮想通貨というものの一般化について

2017/12/01

  • 奥山 泰全(おくやま たいぜん)

    日本仮想通貨事業者協会会長、株式会社マネーパートナーズグループ代表取締役・塾員

ビットコインに代表される仮想通貨はその本質があまり理解されていないまま値上がりを続けており、他の投資金融商品の魅力が薄い中で買いが買いを呼んでいるような状況にある。いわば、フィンテックやブロックチェーン技術への期待とは別に、投資(というより投機)対象として大いに注目を集めている昨今である。

まず念頭に置いておかなければいけないことはインターネットを中心とするIT革命の今後である。近年のスマートフォンやタブレットの普及により、ネット上では情報の検索はもちろんのこと、ソーシャルメディアを利用した情報発信なども一般化しつつあり非中央集権(de-centerized)な多様化が社会的には進みつつある。

この流れは、インターネットによる通信のイノベーションからIT革命2.0などともいわれるデータの革命へとステージを変えようとしている。

即ち、これまで個人や企業が個々のPCやサーバに蓄積・保持していたデータを、よりアクセスしやすく、より保存性や安全性を高めるような発展が求められ始めている。自動車の自動運転などに代表されるAI技術やIoT(モノのインターネット)なども個々のローカルなデータへのアクセスではなく、公のデータネットワークに保存され、必要であれば集約され(ビッグデータ分析やAIの深層学習等)、利用されるなどしたほうがより有効性が高まる。これからのIT革命は「ネット上にデータが普通に置かれている」、パブリックなデータクラウドが実現できるかどうかと言い換えることができる。

ここで注目されるべきがビットコインに代表されるブロックチェーン技術であり、パブリックなデータネットワークである。インターネットは便利だが、その反面これまではネット上に重要なデータを置くことはリスクが高く非常に慎重な対応を要した。しかし、処理速度の向上や技術革新により、暗号化技術の応用やネットワーク形成が実用可能なレベルに近づきつつある。個人の重要情報や財産的価値、企業の機密情報などが暗号化されネット上に分散して(複数コピーされて)保存されれば、暗号化されたデータはカギを持つ人しかアクセスできず(権限のない者にはそのデータが何で、どんな価値を持つのかすらわからない)、またローカルなバックアップにとどまらないデータの保存性が、分散化により担保される。

ネット上のインフラに構築される、パブリックなデータを担う人たちには、担うに足る報酬・インセンティブが支払われる必要がある。ここに仮想通貨(英語ではcrypto-currency で正確には「暗号通貨」)の存在理由、必要性がある。

国や通貨を問わず、パブリックなデータクラウドやネットワークを担う人たちに対して、ネットワークを機能させ続けるために利用者が対価としての仮想通貨を支払う。仮想通貨は、ネットワークを維持し発展させる燃料にも似たエネルギーと位置付けることができる。そして、そのネットワークに価値を見出し利用する人が仮想通貨を購入でき、仮想通貨を支払われた人が現実社会で法定通貨と交換し利用できるようにするため、仮想通貨の交換所における売買が円滑に行われるような市場や環境の整備が必要である。

ビットコインを指し「デジタルゴールド(金)」と表現する方がいるが、それは断じて間違っている。ビットコインをはじめ仮想通貨に期待されている利用価値は上記のようなIT技術の将来にあり、技術は新陳代謝していくものである以上、より安価で、利用しやすく、安全なものにシフトしていく。それと同様に仮想通貨の価値もシフトしていくはずだ。18世紀の産業革命による内燃機関の発明から今日、石炭から石油、そして次世代エネルギーに主要エネルギーが変遷し、それと共にエネルギー自体の価値が変遷していくのと同じことである。ここに仮想通貨の本質的価値がある。つまり、仮想通貨は金のようなインフレ資産ではないのだ。そのうえで、ネットのデータインフラが当然のものとなると、仮想通貨の財産的価値や決済手段としての流通性も一般化していくと考える。

データ=財産的価値=金銭と同義である世の中に変わっていくと、これまでの銀行群が形成してきた送金インフラにとって代わる可能性がある。ここに仮想通貨の次世代決済手段としての可能性を多くの人が見ている。フィンテック(「金融」×「テクノロジー」)と呼ばれる次世代技術の中でブロックチェーン技術、仮想通貨は「決済革命」を起こすと見られている。金融機関等が注目し、情報収集・研究開発に取り組む最大の理由は、このようなIT技術の進歩の中で、送金ネットワークなどに代表される自分たちの既存ビジネスの基盤が崩壊してしまいかねないリスクを肌身に感じているが故なのだ。

データがネット上に存在するのが当然となっていく中、ネット上における交換手段、支払い手段としての仮想通貨の必要性、存在意義は疑うところがなく、流通や利用手段としての一般化もまた当然のものであると考える。


※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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