【三人閑談】
アフリカの動物と自然
2022/04/25
リアルな動物の生き死に
ヒサ もう一つ、最近環境の変化で季節の移り変わりがおかしくなって、例えばヌーの渡るルートが変わったりしていますよね。
篠田 ヌーの渡りをちゃんと見られたことがなく、この時期だよと言われて行っても、毎年ずれが大きくなっている気がします。
2019年、すごく雨が降って川が洪水になり、僕が泊まっていたキャンプでもテントが2基ぐらい流されました。気候変動が理由なのかどうかわかりませんが、現地の人たちも、「こんなことは今までなかった」と言っているのは聞きますね。
神戸 その前はひどい干ばつだったんです。そうしたらその年、ヌーの移動時に川が氾濫しましたよね。たくさんヌーの死骸があって、ずっと臭かったですよね。
ヒサ すごいよね、ガスで死体が膨らんで。ワニがヌーを大好きでしょう。神戸さんはヌーが初めて渡るところを見た時、ワニが食いちぎるのを見て、「なんてひどいやつだ、ワニに仕返しをしてやる」と言って。
神戸 野生動物の保全にはなりませんが、復讐に行きました。石をぶつけて。そうしたら、バッと跳ねて襲いに来るかと思ったら、逃げていった。
ヒサ ワニだって食べなかったら死んでしまうわけじゃないですか。どっちの味方とかしていいわけ?
神戸 しょうがないですよ。愛着があるから。
ヒサ 目の前で生きる、死ぬだからね。例えば、トムソンガゼルみたいに小さい動物が赤ん坊を産むと、結局ライオンなどの肉食獣の餌を産んでいることになってしまう。しかも、産んだ直後に自分も襲われる。
地平線の遠くのほうにカバが昼間から寝ている。なんでこんな時間にと近くまで行くと、ハゲワシが体の中に頭を突っ込んで内臓を食っている。あれは臭いね。
篠田 すごい臭いですよね。
ヒサ でも、それこそ生命の感動というか、普通の景色ですからね。
篠田 僕は以前コンサルティングの会社にいて、新規事業を検討する際には「環境に配慮した」とか「クリーンな」などがキーワードになりがちでしたが、アフリカの現地に行って見てもらうのが一番いいと思うんですね。日本だと動物番組などでも表面的に「かわいいな」となりがちです。
やはり、いろいろな面を知ってもらうために、現地に行ってもらいたいです。簡単に動物保護とか言えない感じが自分の中でもすごくある。そういうことを知るのが第一歩だと思うのです。
ヒサ 篠田さんはライオンが獲物をむさぼり食べるような写真もたくさん撮っていると思うんだけど、あまり写真集には載せていないじゃないですか。ライオンの親子とか、かわいいシーンが中心なのは編集者の意向? それとも、篠田さんの意向ですか?
篠田 両方あります。小学生や中学生に、ライオンはかわいいだけではないし、怖いだけでもないし、いろいろな側面があるということを見せたいと思っています。ライオンの家族を見ていると、本当に人間と同じだなと思うことがたくさんあります。ただ、やはり血なまぐさいのは書店に並べづらいという話もありますね。
ヒサ 印刷物で見るのと、現地で実際に見るのとは全然違うんだよね。同じシーンでも写真のほうが怖かったり気持ち悪かったりする。目の前で見ると、当たり前のことだから。
アフリカの都市の歩き方
ヒサ 神戸さんはアフリカで危険な目に結構遭っていますよね。今でもアフリカは危ないところは危ないでしょう。
神戸 政情不安な国では人も死んでいますよ。
ヒサ 今、ケニアは比較的政情が安定していると言われているけど、それでも神戸さんは、いざという時にいつでも逃げられる準備だけはしているんですよね。
神戸 追いかけられたらとにかく国境を越える。それで、その国の領事のところに行って助けてもらわなければいけません。
ヒサ 篠田さんは怖い思いをしたことはあります?
篠田 アフリカではなるべく街に近づかないようにしています。初めて行った時、ナイロビのダウンタウンをどうしても夜1人で歩かなければいけないことがあって、その時は本当に怖かったですね。
ホテルまで急いで逃げるように戻りました。滞在4日の間に威嚇射撃を3回聞いて。でも、田舎のほうに行けば安全なので、場所によって全然違うのだなと。
ヒサ 本当に違いますよね。1回神戸さんにスラムを案内してもらった時、とにかくはがされるものは身に着けるな、時計でもアクセサリーでも、引きちぎられるものは身に着けず、どこを触られても大丈夫なようにして行けと言われました。
逆に、取られるほうも悪いわけですよね。持っていない者が欲しがるような物を持っていくことがいけない。それが最低限のルールとマナーだと。
神戸 そう、金持ちからは取って当たり前。外国人は皆金持ちですから。
ヒサ そういうことは知らないとびっくりするんですが、日本人の感覚がちょっとずれている。そのルールはナイロビだけではなく、世界中いろいろなところでそうですよね。
篠田 僕は『地球の歩き方』を読みながら、バックパックで回っていたんですが、そこに載っている、ここは危ないみたいな情報は、現地に行くと、意外とそこは危なくなくて、別の場所が危なかったり、ということはありますね。
ヒサ 皮膚感覚でそれを摑めるようになるまではわからないよね。
アフリカから見える動物との共生
神戸 篠田さんはケニアではマサイマラにほとんどいるのですか。
篠田 そうですね。マサイマラが長いです。ずっと追っているブラックロックのライオンの群れもボスの交代があって、群れも分裂し始めているんです。また雄が独立して、ほかの雄とけんかになりそうだという情報もあるので。
群れを守るためにライオンの雄は群れから出されてしまうこともあります。たぶんそれが長い間ずっと生きてくる中で、群れを守るために一番いい方法だったのかなと思います。雌は群れの近場にいることが多いですが、やはり数が増えてくると分裂していったりしますね。
群れも流動的だったり、雄がいくつかの群れをかけ持ちしたりもする。人間みたいな明確なルールがないのが面白いなと思います。
ヒサ それこそ獲物の量が多かったり、渡ってくる動物が減ったりすれば、また違ってくる。餌がなければ子どもから死んでいきます。ちょっと弱れば、周りはハイエナとかがいっぱい待ち構えていますから。
たとえライオンとはいえ、お母さんが遠くまで狩りに行くと、その間に子どもが食べられたりする。それは厳しいものですね。
篠田 ライオンの子どもやチーターの子どもも結構狩られますね。ライオンがチーターの子どもを襲うこともあります。食べるために襲っているというより、何となく邪魔だから襲っている感じもするのです。
弱肉強食だけでなく、皆、油断があれば食われる、少し前にネットでも話題になった「全肉全食」という感じです。それが秩序のない秩序みたいな自然な姿なのだろうと思います。
ヒサ いわゆる定説みたいなものが流布され過ぎていますよね。ライオンの群れはいつもこうだとか。そうではなく、現場は本当に臨機応変、自在に変化する。
草食動物と植物の関係も、雨季や乾季で、乾き過ぎたり雨が降り過ぎたり、いろいろなことがあります。そこに人間だけが、いつも同じようにさせようと自然に圧力をかける。道路を舗装してみたり、散水機で水をまいたりするわけですね。
ライオンがシマウマを食べるだけではなく、シマウマやキリンが鳥を食べることだってあるし、ライオンだってシマウマのお腹の中にある未消化の植物を食べたりする。本当にいろいろな関係があるわけですね。
神戸 アフリカの人たちだって、人口増加して栄えたい。彼らだって近代的な生活に憧れています。
ヒサ 世界中がそうですよね。今、豊かになるための方法の一つで観光資源として動物を守っているわけです。逆に観光客が来なくなったら、野生動物はお払い箱ですよね。そのジレンマはあると思います。
とにかく、アフリカはいろいろな課題を抱えているから、いろいろなことを考えるきっかけになると思うのです。そういう意味でもアフリカを見てほしい。動物を見てかわいいと思うのは、赤ん坊を見てかわいいと思うのと同じように、生命に対する1つの原点だと思いますが、そこから広がって、共生についての関係がいろいろ見えてくると思います。
(2022年1月28日、三田キャンパス内にて収録)
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。
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