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光藤 祐基:音源分離技術でエンターテインメントを革新する

2026/02/16

「ギャップ」を埋めるという意識

──企業の中での技術者・研究者として、どのような意識で何を大切に思ってやっているのでしょうか。

光藤 今の職場はエンターテインメントに囲まれていますし、顧客に接しやすいような環境づくりがされているので、自分のやりたいと思ったことができる環境にはあると思うのです。

一方で、今ニューヨークにいますが、生成AIなどは、やはりアメリカは非常に進歩が速いので、そういったアメリカの状況が、日本にきちんと伝わっていないかもしれないと思っています。政策面で、どれだけ著作権に関してオープンかという違いもあると思いますし、AI研究者の集団と、アートをやっている集団との間でも意識に大きな違いがあるので、そのギャップを埋める活動を今まで結構やってきました。

例えば東工大(現東京科学大)の准教授をやらせていただいたのも、企業では当たり前にやっていることが、外では一般的でなかったり、僕らのやっていることがきちんと見えていないようなことがあると思ったからです。今は、ニューヨーク大学のスタインハート校でもエンタメに関わる人を育てる分野で客員研究教授をやっています。

そのモチベーションはAI研究の場とエンタメを学んでいる学生たちのギャップを埋められないかということです。僕は幸運にも両方に絡んでこられたので、AIという得体の知れないものを見える形にしてあげたり、脅威ではなくてチャンスなんだ、という見せ方をして、ギャップを埋めるようなことをしています。こういったことをしていかないと、大事なものが失われてしまうのではと思うからです。

最近、「鬼滅の刃」などの日本のアニメが、ニューヨークにいると非常に熱を感じます。アメリカ人が日本のコンテンツを知っている状況というのは20年ぐらい前では考えられないようなことです。ハロウィーンでは、皆が日本のアニメの格好をしています。日本の音楽も最近注目されていて、シティポップなどは結構かかっています。

そういったものを広げていく際、意識が高ければチャンスをものにできるのに、ギャップがあることで上手くいかない例もよくあります。例えば最近、ある有名エンタメ企業と同じく有名なAI企業がパートナーシップを結びましたが、あれは、きちんと対価を払ってくれるのであればAIの出力にエンタメ企業側が権利を保有するキャラクターが出てきてもよい、という形にしたわけです。

有名なキャラクターを使ってコンテンツを作って楽しめますからユーザーにとっては非常に嬉しいことです。エンタメ企業側も搾取されるわけではなく、きちんとお金が返ってくる形です。

一方、あくまで個人の視点ですが、日本では、どうしてもAI企業などがやっていることに対して、自分たちの大事なコンテンツが脅威にさらされていると捉えてしまう傾向があって、警戒感があると思うのです。

こういったギャップを埋めていく作業は、僕1人で何かできるわけではありませんが、地道にやっていくことで、日本の大切なコンテンツがきちんと世の中で生かされるようにしたいと常々考えています。

──非常に熱い思いを持たれていることがあらためてわかって、嬉しい限りです。最後に慶應の学生時代のことについて少し話していただけたらと思うのですが。

光藤 大学時代は国際学会にも出たりしていたのですが、やはり研究への姿勢という点では、少し自分だけ離れてしまっているかなとは感じていました。僕はやはり自分で好きな音楽をやりつつ、信号処理の研究をやっているというスタンスで、片方だけに時間を割くわけにはいかなかったので、優等生には見えていなかったと思います。

ただ、自分で劣っていると思っていたわけではなくて、やはり熱意の向けどころで人は変わるんじゃないかなと思っています。自分の作ったものが使われ、製品やサービスとなって世の中で形になりそうだ、ということが想像できた段階から急にやる気が出てきたのですね。大学内で社会実装、もしくは商品を出していくみたいなことは少し想像が難しいのかもしれませんね。

──外からあらためてそういうメッセージをいただけると大変刺激になります。今は社会実装を直接に目指している若い研究者が大学でも増えてきていて、大学もそういうことができる場に徐々になってきていると思うので、引き続きチャンスがあったら協力していただけると嬉しいです。

今後の活躍を期待しています。本日は有り難うございました。

(2025年12月15日、オンラインにて収録)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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